【第4回】社会学部 ⼭本晃輔 講師「おもろいやん。メディアライブラリー」

【第4回】社会学部 ⼭本晃輔 講師「おもろいやん。メディアライブラリー」

2021年9月

連載第4回目は「図書館とは出会いの場」であるという社会学部の⼭本先生に、その魅力について語っていただきました。
また、「聞いてみようメディアライブラリー」と題して、山本先生が実際に山手キャンパスのメディアライブラリーを訪れて取材した記事もあわせて掲載しています。


山本先生によるメディアライブラリーの取材記事(画像をクリックするとPDFファイルが開きます)

図書館のイメージはどのようなものでしょうか。「本を読む場所」でしょうか。なるほど。みなさんにとって図書館のイメージは「学校の図書館」かもしれません。ですが、今日における図書館の役割は「本を読む場所」だけではありません。多様化した社会における「情報アクセスを円滑にする役割」を担うようになっています。
例えば、海外の公共図書館にはWifiのルーターを貸し出す取り組みがあります。ルーターを貸してくれるなんて、ずいぶんと気前がいいように思えますね。インターネットにアクセスできないことで、生活や就職に関わる情報が得られないということは想像ができそうです。そして情報アクセスの問題は「ネットに繋がらない」というだけではありません。新型コロナウィルスに関する医療情報はどこから取得すればよいのでしょうか。あるいは公的支援を得ようとしたとき、その制度の存在や仕組みはどこで知ればよいのか。「知ってる人は知っている」というだけでなく「知りようがない」「理解を深められない」ことは、その後の生活全般の不利に繋がります。さらに、アクセスできる者とアクセスできない者との間にある様々な格差を拡大することになります。こうした情報格差を是正する取り組みも、公共図書館の役割のひとつとして位置づけられるのです。
もう少し積極的に「情報アクセスを円滑にする役割」を言い換えると、図書館とは「出会いの場」といってよいかもしれません。
日本にも特徴的な図書館が数多くあります。「障害をもった人への情報アクセス」に取り組む図書館。カフェ併設、子どもの学習ラウンジ、卓球台やボルダリングを併設している図書館。地域の人が集まり趣味や図書についての愛を語り合う図書館・・・ここで目指されるのは、図書情報だけでなく、情報を通じた人々の多様な交流です。先程のWifiルーターの貸し出しも、情報格差の是正だけでなく、図書館を通じた(例えばルーターの貸し借りに出向くなど)公共機関との接続や人的交流も狙いのひとつです。公共図書館の役割とは「情報」と「誰か」、そして「誰か」と「誰か」を繋げる場所、「出会う場所」として位置づけることができます。
「図書館」の役割とは本を読む場所だけでなく、想像以上に幅広いというイメージをもっていただけたでしょうか。

さて、私にとっても図書館は出会いの場でした。私は父子家庭で育ちました。いまから30年前、父子家庭はとても珍しい家族形態でした。私自身も周囲との違いを意識し、「自分は普通じゃない」と考えていました。そうした悩みは自分固有のもので、誰にも理解されないと考えていました。
そんな私が図書館に入り浸るようになったのは高校生の頃です。それは「本を読んで勉強したい」という積極的な理由ではなく、単純に「サボっていても許される」からであり、前向きな理由ではありません。保健室に行くほどでもないが、教室も嫌だという時期がありました。そして図書館に出入りしていた(同じくサボってるように見えた)教員に「サボるならこれを読め、あれを読め」と渡された書籍に感化されたのでした。その書籍のなかには多様な家族があり、家族との葛藤が語られていたからです。
私にとって図書館での出会いとは「悩んでも良い」という単純な事柄でした。「悩むな」ではなく、「悩んでいい、悩め」ということは乱暴なことかもしれません。ですが、それこそが私が求めていた言葉であるように感じました。「三浦綾子は家族を絶望的に描いたが、僕の場合は違うな」といったように、書籍の中の「誰か」と対話することで、自分の悩みや課題を考えられるようになりました。私は図書館を通じて時代や空間を超えた誰かと出会い、自分の過去に出会い直しました。

ところで、関西国際大学には図書館ではなく「メディアライブラリー」が設置されています。この「メディア」という言葉がポイントです。
「おもしろい大学の先生の講義を聞いた。もっと深めたい」というとき、大学生は「シラバス(講義計画)を調べる」「先生に質問する」ことで解決することができます。ですが、さらに学びを深めたいときにどうするか。
「Amazonを見てみよう・・・あれ、どれを読んだらいいのかわからない」「ネットで検索してみよう・・・浅い知識しかない」といったことがあります。インターネットは知りたい情報を与えてくれるかもしれませんが「知りたい情報しか知ることができない」といった特徴があります。
そうしたときに活用できるのがメディアライブラリーです。メディアとは「媒体」を意味します。媒体とはAとBをくっつける、というイメージをもっていただければ良いでしょう。Aとは「あなた」のことです。Bとはメディアから伝えられる情報です。メディアライブラリーとは、あなたを「新しい情報」との出会いを演出する場所です。
メディアとは「図書」だけに限られません。例えば本学のメディアライブラリーには学修を支援するスタッフがいます。教員によるオフィスアワーも設定されています。様々なイベントも企画されています。情報を収集するだけではなく、「人との出会い」が期待できる場所です。
「どのような本を読んだらいいのか」「もっと議論をしたいのに」と思ったとき、学びを深める場所としてメディアライブラリーがあります。そこにはおせっかいな大学教員もいることでしょう。「あれを読んだらいい」「あの映画がいい」「こんなことを考えてみたらいい」といったように。
大学での学びは「学問」と呼ぶことがあります。新しい「出会い」は、私たちを学びだけでなく「問う」ことにも繋げてくれます。知識や情報を知ることだけでなく、出会い、学び、問うことが大学での学びを深めることに繋がります。本学のメディアライブラリーでも、学びとの「出会いの場」として活用することができるはずです。