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    【心理学部】< 心理学コラム >

    『最近、少年は凶悪化したのか?』

    ー少年法の厳罰化と、素行障害や自閉症スペクトラム障害の問題ー

     

    【2021年6月23日】

    2021年5月28日、改正少年法が参議院で可決された。これまでは容疑者が20歳未満であれば逮捕されても実名は非公開であったが、今後は凶悪事件で起訴された場合、特定少年(18-19歳)の実名報道が可能になった。また、家裁から検察官への逆送の範囲が拡大され、少年法の厳罰化が一層、進んだと言えよう。


    その原因として、近年は非行少年が凶暴化し、そうした犯罪の発生抑止が必要と考えられたことが挙げられる。

    我が国では2002年に一般刑法犯の認知件数が最悪の285万件となったが、その後は減少を続け、2020年はピーク時の1/4程度の件数しか発生していない。

    同様に、非行少年の検挙数も2003以降は減り続けている。ところが、成人と同じような殺人であっても、少年が起こした事件となるとワイドショ-がこぞって大きく取り上げるので、社会の耳目を集めやすい。特に、動機が不可解な少年事件の増加が、2000年以降の少年法の厳罰化に結びついているのではないかと懸念される。

    本当に、最近の少年は凶悪化したのであろうか。


    例えば、2014年に佐世保市で16歳の女子高生が刃物で同級生を殺害した事件では、腹部が大きくえぐられており、その動機として少年は「人を殺して、解体してみたかった」と述べている。また、同じ年に名古屋市で起きた19歳の女子大生が77歳の老女を撲殺した事件でも、動機について少年は「人を殺してみたくて仕方がなかった」と述べている。この少年はその前兆として、高校生のころに、同級生にタリウムを飲ませ、視覚に大きな障害が残る事件を起こしている。


    それを聞いて、私は科捜研に勤務していた時代に担当していた事件を思い出した。静岡県で16歳の女子高生がタリウムを実母に少量ずつ、徐々に服用させて、最後は意識不明にさせる事件があったのだが、名古屋と静岡の事件の背景に強い類似性を感じとったのである。

    タリウムとは殺鼠剤で、1gでヒトを簡単に殺害できる。ところが、2つの事件とも単純には殺さないという点が酷似している。つまり、殺す目的以外で、タリウムを服用させたとなると、その動機が容易に理解できない。


    静岡県の事件では、犯行の経緯がインターネット上の詳細なブログに残されており、過去にイギリスで起きたタリウムによる母親殺しの記録(「グレアムヤングの毒殺日記」)を忠実に模倣して実行する「こだわり」とともに、彼女には著しい共感性の欠如が認められたことが、強い印象として残っている。

    以上の3つの事件に共通するのは、動物虐待を子どものころに、それもネコを対象として実行していたという点である。

    ところで、動物虐待のあとに、ヒトを惨殺した事件となると、神戸の連続児童殺傷事件を思い出す。

    この少年が医療少年院を出た後に書いたとされる「絶歌」には、ネコの首を切った体験が生々しく綴られている。

    少年は当時、素行障害(当時は「行為障害」)と認定され、医療少年院送致となっている。


    昔であれば、成人の凶行犯は単純に情性欠如で、反社会性パーソナリティ障害に分類されることが多かったが、前述した素行障害とは行動に関わる障害で、DSM-5(アメリカの医学会で精神疾患のマニュアル)では、ヒトや動物に対して暴力的とされている。

    酒鬼薔薇聖斗の場合は、愛着障害から暴力性の出現、そして動物殺しに性的興奮を覚え、素行障害につながっていったと認定されている。

    しかしながら、彼が二人の小学生を殺めた本当の原因が、果たして、それだけだったのであろうか。その後、この点に関して、自閉症スペクトラム障害が見落とされていたのではないかという見解が示されるようになった(草薙、2006)。そもそも、アスペルガー障害(当時の呼び方)が殺人事件の責任能力を著しく低下させると認定されたのは、高三の男子が豊川市で起こした事件が最初であると記憶している(2000年5月発生)。

     

    広汎生発達障害(現在では自閉症スペクトラム障害)の診断基準は1994年のDSM-4で初めて明確にされており、神戸連続児童殺傷事件のころには、十分に普及していないために見落とされたのかも知れない(宮川、2016)。そして、自閉症スペクトラムにも動物虐待が認められることが多く、冒頭に述べた3つの殺人事件は、いずれも自閉症スペクトラム障害との関連が指摘されている。

    ところで、2019年に茨城県の境町で発生した夫婦殺害事件では、2年の歳月を経てようやく今年の5月に26歳の容疑者が逮捕された。

    ここでもまた、容疑者は「人を殺してみたくて仕方がなかった」と述べているようだ。彼の場合も子どものころに動物虐待があり、10年ほど前に2つの傷害事件を起こして23歳まで医療少年院にいた経験を有している。

    ちなみに、子どもが動物虐待をする原因としてはいくつかあり、その経験者が必ずしも凶悪事件を起こしているわけではない。また、自閉症スペクトラム障害が常に凄惨な殺人事件に結びつくとは限らない。ここに述べた事件の多くには、こだわりが強いという決まった症状が見られ、向けられた興味の中心が「ヒトの死」に集中し、それを自分の目で確かめてみたいという願望が殺人事件に発展したのではないかと推定される。

     

    最近の少年はスマホに夢中で、それによって、非行少年も昔ほど現実社会で“群れる”必要がなくなった。少年事件が激減した原因のひとつとして、そのことが関与しているのではないかと考えられる。


    今は、全ての非行少年が凶悪化したわけではないし、少年法の厳罰化が犯罪の抑止につながるとは思えない。そして、少年法改正については、本学のグローバルスタディで、学生と一緒に、我が国に先んじて少年法の厳罰化を実施したアメリカ合衆国で調査したことがある。

    アメリカでの少年法の改正は功を奏さず、現在のシアトルでは罪を犯した少年をなるべく少年院に入れない、ゼロディテンション運動が盛んになっていることが判明した。従って、今は、少年法の改正よりも、自分では克服できない精神疾患(他には例えば、ペドフィリア(小児性愛))に関与するような非行少年への適切な治療措置の実現こそ、喫緊の課題と考えられる。

     


    【引用文献】

    草薙厚子(2006)少年A矯正2500日全記録 文藝春秋

    宮川充司(2016):DSM-5による素行障害と反社会性パーソナリティ障害 ─自閉症スペクトラム障害との併存例の鑑定を巡る─ 椙山女学園大学教育学部紀要、9、 63‒75.

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