2016年8月2日掲載
情熱のゆくえ
東京六大学をついに破った! 歴史的勝利のキーワードは「全員野球」
関西国際大学 硬式野球部
方程式なき勝利を重ね 黄金時代の伝説を超える
明治大のパワーヒッター、牛島将太選手(4年)の放った打球がレフトめがけて大きな弧を描く。1点リードで迎えた延長10回裏ツーアウト1・3塁。だれもが逆転サヨナラを覚悟したその時、関西国際大の左翼手・藤原朋輝選手(2年)がフェンスによじ登るようにして、大飛球をがっちりつかむ。
劇的なファインプレーに、スタンドが歓喜に沸いた。2016年6月8日、明治神宮球場、第65回全日本大学野球選手権記念大会。阪神野球連盟代表校が初めて東京六大学の代表校を破った歴史的瞬間だ。
「まさか明治大に勝つとは思っていませんでした。選手は本当にがんばった。最高のかたちで復活ののろしを打ち上げてくれました」
そう話すのは、2003年から関西国際大野球部を率いてきた鈴木英之監督だ。弱小チームだった野球部をてこ入れし、2004年にはチームが所属する阪神大学野球連盟の3部から1部への昇格を最速で成し遂げた立役者である。
1部昇格から5シーズン目の2007年春季リーグで初優勝を果たすと、2010年秋リーグまでの4年間で6度の優勝を重ね、2009年には全日本大学野球選手権大会で全国4強となるなど「黄金時代」を築いた※。しかし2010年以降は優勝から遠ざかる。以来「強い関西国際大」の復活がチームの宿願だった。
とはいえ「東京六大学からの勝ち星」は黄金時代にも果たしていない。全国大会初出場の2007年は早稲田大に大敗を喫し、4強入りした2009年にも準決勝で法政大学に敗れている。今季のチームの強さはどこにあるのか。鈴木監督はこう話す。
「このチームなら勝てる――。そんな確信や手応えは、全く、全然ありませんでしたね」
主将の畑涼介選手をはじめ、下級生の頃からレギュラーを張ってきた4年生の野手が充実していたので打線は比較的安定していた。しかし、かつてのような絶対的なエースがいないため投手を軸にした勝利の方程式が描けない。決め手を欠く中、鈴木監督は開幕時、選手たちにこんな発破をかけたという。
「今季はトーナメント戦のつもりで戦え。一戦一戦がすべて。明日はない」「ピッチャーに頼るな。勝とうと思うなら1試合5点は入れろ」
オープン戦を前に主力選手がバタバタとインフルエンザに倒れるアクシデントにも見舞われた。しかし、振り返ればこれが「ケガの功名」として今季の快進撃の原動力になったと鈴木監督は振り返る。
先発投手の駒不足は新戦力の開拓につながり、継投を重ねて逃げ切る試合運びが定着していった。勝ちパターンがないからこそ、劣勢になっても諦めず次策を試す。一人ひとりの選手に「どこでどう呼ばれても自分の役割を果たそう」という自覚と気概が生まれ、チームがひとつにまとまっていった。これが「全員野球」で勝利をもぎ取る今季の強さの源になったのだ。
リーグ完全優勝をひっさげて いざ、神宮の舞台へ
「よく〝戦いながら強くなる〟という言い方をしますが、今シーズンはまさにそれでした」
リーグ戦の開幕カードは大阪体育大。優勝候補の強豪だ。初戦の先発は4年の上野幸己投手が務め、リードしたまま終盤を迎えるが、9回裏に一打逆転のピンチが到来。鈴木監督は翌日の先発を予定していた門野敦也投手(2年)をマウンドに送った。「一戦必勝」の決意のあらわれだ。好セーブで役割を果たした門野投手は翌日も予定通り先発して2連勝に貢献。続く天理大戦では石田啓介投手(2年)が初先発に抜擢され、力投で期待に応えた。
運もあった。6勝1敗で前半を折り返した後の追手門大戦では上野投手が初回に5失点と崩れた。この日はなんとか逆転勝利するものの、翌日も悪い流れが断ち切れず敗戦。ここで勝ち点を落とせば優勝が危うい。嫌な空気が漂ったその時、タイミングよく雨で試合が流れ、体制を立て直すことができたのだ。楽な試合はひとつもなかったが、ふたを開けてみれば5チームすべてに勝ち越す完全優勝。7年ぶりに大学野球の聖地・神宮球場への切符を手に入れた。
しかし神宮では、手堅い勝利をめざした1回戦でいきなりピンチに見舞われる。京滋大学野球リーグを勝ち抜いた花園大の打線がエース門野を捉え、初回にまさかの5被安打3失点を喫してしまうのだ。しかし、今度は後を託された上野投手が好投。延長10回に田中俊樹選手(4年)のセンター前ヒットで劇的なサヨナラ勝ちを奪う。ピンチに崩れず、総力戦で勝利をもぎ取る。今季のチームを象徴するような一戦だった。
そして迎えた明治大との大一番。前日ノックアウトされた門野投手が再び先発マウンドに立ち、明治打線を無失点に抑える好投でリベンジ。両チーム無得点のまま延長タイブレーク※になだれこんだ上での大金星だった。3回戦では奈良学園大に敗れて4強進出はかわなかったが、全国8強にして優勝候補の筆頭だった明治大学を撃破したことは、開幕前には望みようもないほど素晴らしい結果といえる。
学生や教員はもちろん「応援する会」※など地域の人も多くが球場に駆けつけて熱い応援を送った。スタンドで歴史的瞬間を見守った控え選手の胸にも期するものがあるはずだ。黄金時代の第二章へ。新たな始まりに期待が高まる。
※黄金時代
2007年に春季リーグで初優勝し、全日本大学野球選手権大会初出場ベスト8の快挙を達成。以降2009年の全日本大学野球選手権大会でベスト4に進出するなど全国でも活躍。榊原(元オリックス)松永(ロッテ)などプロも輩出し「投手力の関西国際大」の実績を築いた。
※延長タイブレーク
試合に早期に決着をつけるために導入されている延長ルール。第65回全日本大学野球選手権大会では、9回終了時に同点なら10回以降は両チームの攻撃を1死満塁の状態から始める。10回の攻撃では打順のスタート位置を選択することができ、以後は継続打順となる。
※応援する会
2005年4月、阪神大学野球連盟1部リーグ昇格を機に、地元三木市の有志の方々によって結成された。2015年に発足10周年を迎え、今や会員数は100名を突破。練習の見学や試合の応援、優勝祝賀会の開催など活発な活動を展開し、チームとの交流を深めている。
