学長室

201810.12
学長室

【学長室】2018年度秋リフレクション・デイ学長講話

 それでは、「リフレクション・デイ」を始めたいと思います。
 皆さんにとってみれば、初めての「リフレクション・デイ」だと思います。「リフレクション・デイ」というのは、どこの大学でも行っているものではありません。おそらく全国でも10大学ほどだと思います。皆さんの友人が通っている大学ですと、この時期にガイダンスや、成績表を配布されるだけだと思います。関西国際大学で「リフレクション・デイ」を始めることになったきっかけは、学生の皆さんは人から評価される経験は豊富にあるが、「自己評価」というものを十分理解できていない、そういう教育の仕組みは問題であると考えたからです。

 日本人は人から評価されることをイメージし、評価はいやなものだという印象が非常に強いと思います。今日、返却された成績表を見て一喜一憂する人がいると思います。「あぁ、良かった!」という人もいれば、「何で私の評価が低いのか?」という人もいます。それをいくら繰り返しても評価する力はつかないのです。
 ところが、実際に皆さんが社会に出ていくと、いずれ人を評価する立場に立つことになります。人から何を評価されて、評価されないのか。わからないまま努力を続けていても成長できません。そこで、本学では「ルーブリック」を作ることにしました。そして「リフレクション・デイ」では、ルーブリックでの評価がついた答案が返され、"何がどこまでできたから、この成績なのだ"ということが自己評価できるようになっています。

 本学の先生方は、他大学と異なり、成績に点数をつけるだけではなく、何がどうだからこの点数であるという説明を求められているわけです。これは他大学の先生方よりも負担が大きいかもしれません。しかし、とりわけこれから教員になっていこうという教育学部の皆さんにとっては、より重要なことであると思います。もちろん、民間企業であっても、また他のどこであっても、評価はつきまといます。評価はいやなものではない、何がどう評価され、今この状態なのだということを理解してもらうために、このふりかえり作業を行っているのです。

 今年、本学は開学20周年です。関西国際大学は、1987年に三木市で短期大学として発足した関西女学院短期大学を起源とし、1998年に三木の地で開学をして今年で満20歳となります。さまざまな創立記念行事がありましたが、9月29日(土)に公式の式典を開催いたします。

 関西国際大学は、もともと学校法人濱名学院が作った学校ですので、関西女学院短期大学あるいは難波愛の園幼稚園と、共通の教育理念をベースにしています。
 「以愛為園」、人に対する思いやりや人を受け入れる姿勢を持った人間になってもらいたい、そうした学園にしていきたいという創設者の思いのもと、創立記念日も創設者である濱名ミサヲ先生の誕生日に由来しています。しかしながら、厳密にその日に創立記念行事を行うことができるわけではなく、この1週間を創立記念週間とし、創立記念式典の直前である本日は、皆さんにシンポジウムを聞いてもらうことになっています。

 本日、話をしなくてはいけない内容は、皆さんが成績や答案、レポートを返してもらったときに、それを見てふりかえりをして欲しいということです。良かった、悪かったと一喜一憂していても自分の力はつきません。自分が何故、どこがうまくいったのかということ、また何が課題なのかということを知った上で、ふりかえりをし、次の目標を立ててもらう。それが「リフレクション・デイ」であるわけです。その際、答案だけではないふりかえりの材料を提供するために、私はそれぞれの学年、キャンパスでお話をするようにしています。

 今日は資料を1枚配布しています。この資料に則りながら話をしてきたいと思います。
 タイトルは「社会が変わり、教育が変わり、キャリアが変わる~開学20周年を迎えて~」です。これまで皆さんは、基本的には自分の将来を、親の背中やおじいちゃんおばあちゃんの姿を見て想像していたかもしれませんが、そのような将来はもう待ってはいないというお話です。

 資料の中にあるカラーの図は、リンダ・グラットンさんのパワーポイント資料です。皆さんは、幸か不幸か、時代の変わり目にこの大学に入ってきました。関西国際大学で言えば、皆さんは20期生となります。もっと大きな時代の変化で言うと「Society5.0」という時代です。これは人類の歴史の中で、第5段階に入りつつあるということです。
 第1段階は、文字のない時代です。狩猟文化、それが「Society1.0」。「Society2.0」は農耕社会です。「Society3.0」は、皆さんもなんとなく実感として想像がつくと思いますが、日本で言うと150年前、明治維新以降の時代です。工業化社会、これが「Society3.0」です。皆さんが社会科や高校までの教育で学んできたことは、ほとんどここで終わっていると思います。「Society4.0」とは情報化社会、まさに今現在です。
 そして、もうすぐそこに「Society5.0」が来ているのです。「Society5.0」というのは、バーチャルな世界と現実の社会がクロスオーバーする形で、経済発展していき、また社会問題の解決も図っていく時代です。

 例えば、皆さんが日常的に使っているスマートフォンは何年前にできたか覚えていますか。スマートフォンが登場したのは11年前です。今年で11年目となりますが、スマートフォンには「4G」(フォージェネレーション)とあると思います。11年で世代が4つも変わったのです。もう「5G」の時代が目前です。皆さんの人生を考えれば、今後、どれだけ大きく時代が変わるのか想像がつくと思います。リンダ・グラットンさんは、これまでの人生は資料の上の図のように、教育を受けるのが25歳まで、25歳から60歳までが仕事の期間であったとしています。22歳や18歳で社会に出る人もいますが、60歳になると引退する。皆さんが、自分の近親者、家族を見てイメージしている人生はこれに近いと思います。

 ところが、今後予想される未来は確実に下の図のようになっていくというのです。「Explorer」「Independent producer」「Portfolio stage」を行ったり来たりすることになります。
 「Explorer」というのは、自分の生き方に関して考える時期、知識やスキルを再取得しなければいけない時期であり、そのような時期が確実にやってきます。
 何故か。皆さんが4年間の大学生活の中で学んだ知識とスキルだけで、自分の人生を全うすること、一生食べていくことは不可能であり、それゆえ学び直しが必要となってくるということです。
 そして、第2段階の「Independent producer」は、組織に雇われず、独立した立場で生産的な活動に携わること。つまり、組織に就職すればなんとかなるというのではない生き方がごく普通に現れるようになるということです。
 3つ目の段階は、「Portfolio stage」で、異なる活動を同時並行で行うことです。
今回、国家公務員の兼業を認めるという方針が出されました。今まで公務員は、他の仕事をして収入を得てはいけなかったのです。公務員である先生が、アルバイトで家庭教師をしてお金をもらってはいけないのです。公務員は、「公僕」「パブリックサーバー」といって、公に奉仕する者ですので、それ以外に収入を得てはいけないことになっていましたが、それが変わろうとしています。

 さらに、ますます少子高齢化となっていきます。これは皆さんのすぐ目の前にある問題です。人間学の授業でもお話ししますが、今後は人手不足になっていきます。なおかつ、皆さん自身が高齢者になったときには、下の世代はもっと少なくなり、老後は大変なものとなります。寿命は延び、人生100年時代が訪れますから、定年を60歳から65歳くらいとした場合、リタイアしてから35年以上あることになります。
 このような時代が待っている中、さらに自然災害がどこにでも起きます。私は半月の間に自然災害を4回経験しました。まず、8月31日に富山におり、爆弾低気圧のため飛行機と電車が止まってしまいました。9月4日には関西に台風が、6日未明に札幌で地震に遭い、先週末には台湾で台風に遭遇しました。こんなことが、当たり前に起きるようになります。世界中、自然災害に直面しない町なんてないのです。周辺の道路は冠水し、尼崎では信号が半分ほど消えました。札幌はほぼ全部が消えていました。先日、宮崎へ講演に行くと、かつて宮崎は台風銀座と言われましたが、今年は九州の西側に被害が多く、東側は無事とのことでした。一方で、四国から関西は台風被害が多くなっています。
 自然災害はどうなるかわからない、防げないのです。社会のあり方が、皆さんが教科書で習ってきたとおりではなくなってきています。

 次に資料の2つ目のテーマ「教育は変わる」です。学習指導要領が大きく変わります。本学教育学部のベテラン先生方のノウハウではカバーできない部分がどんどん出てきます。現場では三重苦というそうです。
 まずは「英語」。皆さんは話せますか?
 2つ目は「道徳」です。「道徳」は教科書ができ、教科になります。いい道徳、いい倫理観と悪い倫理観を皆さんは評価できますか?点数をつけられますか?これがまた大きな課題です。
 3つ目は、プログラミング学習です。先日、本学でシンポジウムを行いました。たくさんの方々が来られましたが、関心を持っているのは親や子どもです。学校の先生以上に関心を持っています。教科ではないのです。プログラミングというのは、コンピューターのプログラムの書き方を教えてくれるのではありません。段取り学です。こういうゴールへ行きつくためには、どういう筋道を立てて設計していかなくてはいけないか、論理的に設計図を描いて、それに向けて、どういうプロセスでどんなことを行っていけば、やりたいことへ到達できるのか、というのがプログラミング学習の内容です。皆さん、それができますか?

 このように学習指導要領が変わり、皆さんが大学教育によって何ができるようになったのかを、社会に対して説明することを大学は強く求められるようになってきました。
 そのような中で、キャリア、出口も変わります。民間企業に就職したい人もいますし、教員になりたい人もいると思います。就職活動のあり方も、新卒一括採用が変わるかもしれない。おそらく変わるだろうと思います。
 皆さんはまだ先のことだと思っているかもしれませんが、確実に、今の就職活動と皆さんが行う就職活動は違います。新卒者と既卒者に同じ方法で採用活動を行うとか、通年採用を行う話も出てきています。大手企業ほど、外資系企業に先を越されないよう、もっと早く就職活動を行いたいと考えています。
 ところが、地方の中堅企業では人手不足で働き手がおらず、廃業する会社が出てきています。ものすごく多様化しているのです。

 その中で皆さんは何をしていけばよいのか。皆さんにはインターンシップをすることも求めていますが、インターンシップも採用活動の一環となりつつあります。採用者を選ぶことができる企業は、いつでも皆さんを見ている状態です。インターンシップの説明会などで、寝ている人や態度が悪い人はもちろんチェックされ、筆記用具を持って人の話しを聞いているだろうか、そのような習慣が皆さんに身についているだろうか、そんなところも見始めるようになっているわけです。
 就職協定も変わってきています。就職すれば何とかなるのか。いや、今は何ともならないのです。すでに50代男性のうち、最初の就職先に勤めている人は3割しかいません。これからはもっと変化します。就職はゴールではない。採用試験に合格すればゴールではないのです。
 では、どうすればいいのでしょうか。皆さんが、大学4年間の中でどのような基礎力を身につけておくことができるか。時代の変化に流されず、自分の生き方を選ぶという基本的なトレーニングを今までやってこなかったことは仕方がありません。けれどまだ間に合います。ぜひ、今から始めてください。

 次に、「自律性、社会貢献性、多様性理解をいかに体現していくか」です。冒頭に、創立記念の話をしました。「以愛為園」、人に対する思いやりや人を受け入れる姿勢を持った人を育てる。21年前、開学に先立って初代学長の故 村上敦先生に呼ばれ、「我々はこれを幼稚園児にわからせるのは簡単だけれども、大学生にわかるように『以愛為園』を作り直せ、説明を考えろ。」と言われて考えたものが、ここに書いてある「自律性」「社会的貢献性」「多様性理解」です。

 「以愛為園」とはどういうことか。自分のことだけでなく、他者のため、社会のために何かやろう。そして、自分たちと異なる価値観や文化の人たちがいることを受け入れよう。また、能動的に自分のことをセルフコントロールしながら生きていくことができる。そのような人々が集まる場が「以愛為園」である、という置き換えを行い、それが今でも関西国際大学の教育目標として掲げられています。2006年にKUIS学修ベンチマークを作ったときには、「コミュニケーション能力」と「問題解決能力」を加えました。私たちはこうした力が普遍的に、20年前も今も常に皆さんの基礎を支えてくれるものだと信じています。

 また、ラーニングルートマップというものを作りました。何故「評価と実践」という授業を作ったのでしょうか。このようなことを実施しているのは本学だけです。
 この秋に「評価と実践」の中で、人から計画を与えられるのではなく、皆さん自身がラーニングルートマップを作成すると思います。将来の目標に向けて自分の学びの計画表を作ってください。そして、常に見直してください。計画を作ればいいだけではないのです。そのプロセスを修正し、ふりかえりの材料を蓄積していかなければなりません。レポートや答案はPDFで返します。自分自身が行った活動は、ポートフォリオにきちんと記録してください。それらは自分自身のふりかえりや、他の人に自身のことを説明するときの助けになります。
 思い通りに人生を歩んでいる人なんて誰もいません。躓くことは、決して悪いことではないのです。躓きとは気づきです。不注意に歩いていると転ぶことに気づいてもらいたい。そして、同じことを繰り返すのではなく、失敗から学ぶということを、皆さん自身の頭で考え、自分の経験値にしていって欲しいのです。失敗から何ができるようになったかということを、皆さんが自身でどのように記録していくかが大事なのです。

 20年前、「以愛為園」という文脈を私たちは変えました。それを20年後再び見返したとき、私たちの基本的な考え方、皆さんに身につけて欲しい力が変わるわけではありません。
 しかし、重要なキーワードがいくつかあります。1つ目はグローバルです。グローバルスタディは行かされるものではありません。自分がそこから何を吸収しようとするかが大切です。
 そして、安全安心はタダでも当然でもない。当たり前のことではないと考えると、2つ目にセーフティというものの価値をしっかりと認識しなければなりません。皆さん全員に防災士という資格を取るチャンスがあります。これは基礎資格です。
 3つ目はマネジメントです。これは何か。自分がいる場をより快適にするために何をするかです。マネジメントというのは経営学や経営とイコールではありません。自分が所属している集団や組織の持っている潜在力をどこまで上げられるか、そのために皆さん一人ひとりは何ができるでしょうか。何を考え、何を行動し、何をふりかえって、自分の中にどう取り込むのでしょうか。それを考え、実践すること、そして成長することが皆さんの責任だと私たちは考えています。

 この後、シンポジウムで専門家の話も承りますが、自分にできること、自分が次に何を目指すのかということをしっかりと考えながら、臨んでもらいたいと思います。それこそが、皆さんが20歳を迎えた関西国際大学の20期生として、入学した価値というものを再発見することであると確信しています。(1年生対象、尼崎キャンパス)


 配布資料はこちら (377KB; PDFファイル)


2018年9月25日
学長 濱名 篤

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE
  • Twitter