学長室

202003.11
学長室

【学長室】東日本大震災から9年にあたって

教職員
学 生 各位



 未曽有の大災害として我が国の歴史と国民の記憶に刻み込まれた東日本大震災から、早くも9年という年月が過ぎました。日本も含め世界が新型コロナウィルスをめぐる危機に瀕している現在、突然私たちをおそった東日本大震災という想像を絶する災害が、防ぎようのない大きな悲劇であったと改めて思い起こさせます。


 この9年の間、被災地域の復興は、部分的に進んだものと遅々として進まぬものに分かれているように見えますが、ご家族やご友人を亡くされた皆様、家屋や職場を無くされた皆様、心身に傷を負われた皆様の苦しみは依然として大きく、多くの皆様が、家族がともに暮らし、自分の仕事をするといった当たり前と思えることすらかなわず、今日でもなお、仮設住宅での暮らしを余儀なくされる等、厳しい生活を送っておられます。他方、復興のめどが立ったのではないかと一般の人々が無関心になってきたという震災の"風化 (忘れ去られつつある側面) "を憂慮する声も出てきています。


 このような状況で、私たちは何を学んでいくことが重要なのでしょうか。


 先頃、本学において実施したアジアからの学生と本学学生が参加したフィールドスタディ・プログラムでは、阪神淡路大震災の被災された地域や住民への調査から、悲しみの中でも人々が寄り添い、助け合い、思いやりをもって"支え合う"日本人の姿への賞賛と、そこから築き上げてきた"安全・安心"のための備えや震災が発生した際にどのように対処し被害を最小限にするかという"セーフティ・マネジメント"のシステムづくりへの高い関心を表明されました。


 日本の国土の面積は全世界0.28%ですが、全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の20.5%が日本で起こり、全世界の活火山の7.0%が日本にあります。また、全世界で災害によって死亡する人の0.3%が日本、全世界の災害で受けた被害金額の11.9%が日本のものとなっています。


 生命の安全が保証され、安心して生活が送れることの価値は、危機や異変が「まだ起きていない」日常生活では、気づきにくく忘れられやすいものなのかもしれません。


 私たちは、こうした"当たり前"と思いがちなことの価値を再認識し、その状態を維持するという責任を果たしていかなければなりません。


 本学においても、「防災士」が全学科で取得できる科目開講を行い"安全・安心"な社会の実現をめざすセーフティ・マネジメント教育を通して、ひとりひとりが、この大震災から得た教訓を忘れることなく、人と人との繋がりを大切にした社会づくりに取り組んでいく責任があるということを、皆さんと確認したいと思います。


 本学の建学の精神である「以愛為園」とは、人に対する思いやりや人を受け容れる姿勢を持つこと、言い換えれば、他人の痛みや喜びに対する感性とそれを自ら行動に移す精神を持った共同体をつくろうということでもあります。


 皆さん自身が、こうした取り組みから得る経験とふり返りを通して、大震災で亡くなられた方々、被害に遭われた方々を忘れず、安全・安心なこれからの社会と環境をつくりあげていけるように、自らができることを発見し、実行に移されることを期待しています。


 また、阪神・淡路大震災を25年前に経験した被災県にある本学の教職員・学生は、その痛みを理解し、自ら被災地の皆さまに対し、できうる限りの祈りと復興への支援を捧げていきたいと思います。


 最後に、改めて東日本大震災で亡くなられた皆様のご冥福を心よりお祈りいたします。

  2020年3月11日

関 西 国 際 大 学
学 長 濱 名 篤

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