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"関西国際大学モデル" 学生支援型IRのアウトライン

評価センター長 藤木 清 教授

多彩な学生データを駆使して教育の質を保証

多彩な学生データを駆使して教育の質を保証

 まだ「IR」という概念が一般的ではなかった2000年代初め、関西国際大学におけるIRの取り組みが始まりました。2004年に高等教育研究開発センターの下部組織として設置され、その拠点となったのが「評価室(後の評価センター)」です。私は立ち上げと同時に責任者になり、まず自己点検評価報告書を作成するために、各学部に散在するデータの集約作業を始めました。

 その動きと並行して、学生一人ひとりのデータを活用した学生支援の取り組みも進めました。本学では、全国に先駆けて「学習支援センター(現 学修支援センター)」を設置し、学習支援が必要な学生をサポートする仕組みを早い段階で構築しており、学生が自分の学習経験と学習成果を蓄積できる「ポートフォリオ」が導入されました。導入当初より、ポートフォリオをアドバイザー教員が定期的にチェックする体制を整え、最初は物理的なファイル形式でやりとりしていましたが、やがて電子化して「e-ポートフォリオ」へと進化。本学の学生が卒業時までに身につけるべき能力を定めた「KUISs学修ベンチマーク」と組み合わせ、一人ひとりが効率よく目標管理ができるようになっています。これら多彩な仕組みを組み合わせることで、学生は日々の学びの中で、実践と検証、改善を繰り返すPDCAサイクルを回し、目標に近づけるようになっているのです。

 評価センターでは、他の学生情報と合わせてデータベース化し、学生 支援や教育改善のための現状分析、学部や大学が全体として教育目標を達成できているかどうかのアセスメントなどに活用しています。直観や経験知ではなく、データの客観的な裏付けを根拠にした学生支援や大学運営は、教育の質を保証するために今や欠かせないものといえるでしょう。

広範なデータを活用することでより強みを生かした教育へ

 学生支援といえば、本学が独自にプログラムを開発し、今日までブラッシュアップを重ねてきた「初年次教育」も特筆すべき取り組みといえるでしょう。そもそもの始まりは、せっかく入学してきたのに大学にうまくなじめず中退に至ってしまう学生を減らそうと、「ノートの取り方」「レポートの書き方」といった基本的な学習技術を丁寧に伝える新入生向けのプログラムを作ったことです。当初は90分間の単発講座でしたが、2002年には必修科目化し、テキストとして「知へのステップ」(くろしお出版)も出版。これが話題となり、今では多くの大学に教材として採用されています。今でこそ「初年次教育」はどの大学でも当たり前になっていますが、実は本学が先鞭をつけた教育プログラムなのです。

 こうした先駆的な取り組みをベースにして、本学を含む4大学が取り組む、文部科学省大学間連携共同教育推進事業「主体的な学びのための教学マネジメントシステムの構築」へと発展させました(淑徳大学、北陸学院大学、くらしき作陽大学との連携)。補助事業の終了後は、そこで得られた知見を継承し、さらに事業展開を推進してゆくため、新たな大学間ネットワークである一般社団法人 学修評価・教育開発協議会20165月に設立し、2022年には大学等連携推進法人の認定を受けました。合わせて、全国の国公私立大学が参加する「一般社団法人大学IRコンソーシアム」への参画を通じて収集した共通調査データも加え、より俯瞰的に本学の強み・弱みを把握しています。その結果、本学の学生は数量的な分析・表現が弱い一方で、異文化理解や他者との共同作業、プレゼンテーションなどに強いという傾向が見えてきました(「KUISs Performance Report」)。これらの分析と考察は、入試改革や教育改善、キャリア支援などにも役立てています。

 IR先進地のアメリカでは、学生の学習履歴だけでなく、卒業後の進路も含めた生涯的なデータベースを構築している大学があり、学生がロールモデルとなる卒業生に直接アクセスしてアドバイスを受けられるという例もあります。最終的にはこのように、世代を超えてIRでつながる仕組みを構築していきたいですね。

KUIS IRのしくみと三層構造のアセスメント

Keywords

■IR(InstitutionalResearch)

大学内のさまざまな情報を収集・分析し、教育や研究、学生支援、大学経営などに活用すること。アメリカで1960年代に生まれて普及。現在では日本でも多くの大学がこの考え方を取り入れて、専門部門を設けている。

■ポートフォリオ

学習の記録や成果、目標などを書き込んでいく記録ファイル。クを通じて成長を確認しながら前進できるようになっている。2007年からは電子化され「e-ポートフォリオ」に進化した。

■KUISs学修ベンチマーク

学生が身につけるべき能力を示したもの。5つの大きな目標とそれを達成するために必要な能力で構成されており、これらのチェックを通じて成長を確認しながら前進できるようになっている。[5つの大項目]・自律できる人間になる ・社会に貢献できる人間になる ・心豊かな世界市民になる ・問題解決能力を身につける ・コミュニケーション能力を身につける

藤木 清 教授

PROFILE

藤木 清 教授

関西学院大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学、修士(商学)
関西国際大学 心理学部長 教授、評価センター長
専攻は統計学
主要編著書に『知へのステップ第4版』(2015,くろしお出版,共著),『リサーチ入門-知的な論文・レポートのための』(2013,くろしお出版,共著),『夢をかなえるキャリアデザイン』(2011,くろしお出版,編著),『ゼロからの統計学』(2010,くろしお出版,共著)などがある。