心理学科ニュース

202510.10
心理学科ニュース

【心理学部】「なぜ、面識のない高齢女性を殺害したのか」報道番組からの質問に 中山誠教授がコメント-

2025年9月30日に発生した東京町田市における無差別殺人事件について、フジテレビ「LiveNewsイット!」からの取材に、本学 中山誠教授が専門家としての見解を述べています。
FNNプライムオンライン

FNNプライムオンラインでの中山誠教授のコメント動画

(日にちが経過すると、ニュースの性質上、削除や他の報道に代わっている可能性があります。)

質問1
今回の事件について、逮捕時とその1週間後の容疑者を見てどんな印象を持ったか。何か違いが感じられたか。

 コメント:テレビで見た目だけなので詳しくはわからないけど、表情に生気がなく、生活に疲れた感じ、かなりやせている印象。通常、容疑者が逮捕され、規則的な生活に戻るとふっくらすることがあるが、1週間たっても、表情がほとんど変化していない。殺人事件を起こしても、本当の思いを遂げられていないのではないかという感じがした。

質問2
社会から疎外感を感じている人物だったらしいが、それが理由で犯罪に至るケースはあるのか

 コメント:疎外感だけで、犯罪に至るわけではないが、トリガーのひとつにはなりえる。誰か、止めてくれる人がいたら犯罪には至らない。最も親身になってくれる両親と離れて生活していたというのもよくなかったのでしょう。無差別殺人の場合、ほとんどが一人暮らし、その日の生活にすら行き詰っていることが多い。

質問3
そういう人物を社会でどう守っていく必要があるのか

コメント:単に愚痴を聞いてくれるだけでもいいので友達や話し相手が必要。相談にのってくれる人がそばいればこういうことにはならない。でも、こういうタイプは、自分から外に踏み出さないし、ましてカウンセリングを受けに行くような行動をなかなかとらないので、社会の方からそういう人に働きかける、セーフティネットのような、「仕組み」を作る必要があるかもしれない。

質問4
容疑者の両親は容疑者がおとなしい性格と言っていたが、そうした人物を犯罪に駆り立ててしまう本質的な部分とは

コメント:大人しいから、こういう犯罪をやるという決まったパターンはない。ただ、いろいろなことを自分の中で抱え込んでしまい、不満の発散を上手にできなくて、内側にため込むことは考えられる。それが蓄積され、爆発すると普段の生活からは想像できない行動をとることもある。特に、低自己統制、即ち、セルフコントロールが弱いとそうなりかねない。

質問5
今回狙われたのがいわゆる弱者に当たる高齢女性になる、そういう人を狙う犯罪になりやすいのか

 コメント:狙った相手に反撃されずに、確実に死に至らしめるには、体力の付いてない子どもか、体の衰えた高齢者、その中でも女性の方が確実でしょう。しかも、周囲に助けを求められない環境、即ちひとりでいるときを狙い、屋内に侵入しなくてやれる場所という意味で、道路を歩いているような人を狙ったのかもしれない。

質問6
今回は容疑者が自暴自棄になっていた可能性がある、そういう要因が犯罪に駆り立てやすいのか

 コメント:経済的困窮と人間関係の孤立から、最後は自暴自棄になって無差別殺人というケースはこれまでに池田小事件、秋葉原事件、大阪駅前クリニック放火事件など、無差別殺人に共通する要素である。

お金に困り、周囲の人に見放され、その日に食べるものにも困り、生きる希望をなくして、最後はどうにでもなれと、自暴自棄な行動に出ることがある。さらには、自分をここまで追い詰めた世の中が悪い、その世の中に最後は復讐してやろうという気持ちがあったのかも知れない。ひとりで死ぬのは嫌だから、誰かを道ずれにした拡大自殺も考えてということもある。

このタイプは、恵まれない自分の人生を自分の実力不足、努力不足に帰せずに他責的に考える。そして、先ほど述べた池田小、秋葉原、大阪駅前クリニック放火事件では、一度に大量の人を殺めることで、最後に一花咲かせたい、世の中の注目を自分に集めるための承認欲求もしくは自己顕示欲が感じられた。しかし、今回の容疑者はそこまで大胆な行動をとらなかった点で従来の事件と異なるが、そこには内向的という、今回の容疑者のパーソナリティ要因が関係しているのかも知れない。

質問7
生きていると誰にでも成功体験や失敗体験があるかと思います、失敗体験を繰り返す中で、凶行に及ぶケースは考えられるのでしょうか

 コメント:就職氷河期ではないかもしれないが、まだ、採用が少ないころに学校を卒業し、収入のいい仕事につけていないのではないか。不遇な状態を脱することができなくて、表情からは生活に疲れた感じもする。自己肯定感を強めるような体験に恵まれていないのかもしれない。ただ、一般市民は不遇な生活を強いられても少しでも努力して生活をよくしようと一所懸命に努力する。ところが、他責的傾向のある人は、それを社会のせいにしてしまい、そこまで自分を追い込んだ社会に対して、最後にアベンジャー型犯罪を起こすことがある。

質問8
上記に補足して、些細な事がきっかかで誰でも凶行に及ぶケースは考えられますか

 コメント:昨年末の北九州で中学生が刺された事件以降、長野駅のバス待ち中に男性が刺された事件、千葉で中学生が老人を殺した事件、神戸で面識のない女性を殺害した事件とか、恨みや金銭トラブルに起因する明確な動機のない殺人が多く報道されている。今回の事件も、面識のない人を狙う無差別犯罪という意味で、最近、起きた一連の殺人事件を模倣した、コピーキャット現象の可能性がある

中山誠 教授のご紹介

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