
心理学科コラム
【心理学部】『ネット時代のパンデミック』
私たちは今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という災害の只中にいます。今年のお正月頃には、数ヶ月後に社会がこんなに変化してしまうなんて、誰が想像し得たでしょうか。「災害」というと、なんか自分にはそんなすぐには関係のないもの、という風に思いがちですが、実は意外に身近で、無縁ではいられないものなのです。
このパンデミックを、災害心理学の目から考えるとどうなるでしょう?
パンデミックは、地震や津波、火山の噴火と同様、自然災害の1つで、生物学系という分類に属します。
人の社会はこれまでにも、中世ヨーロッパのペストや100年ほど前のスペイン風邪など、多くのパンデミックを乗り越えてきました。
しかし今回のパンデミックには、これまでと大きく違うところがあります。それは、私たちがネット社会に生きている、ということです。情報の伝わる早さ、広さが過去のパンデミックの時とは格段に違います。そして、こうした災害時には、必ず流言飛語が飛び交うものです。
皆さんも、スーパーの棚からトイレットペーパーやティシュペーパーが突然なくなってしまったことは記憶に新しいことでしょう。これは「トイレットペーパーやティシュペーパーが中国から輸入できなくなり品薄になる」という流言が一気に拡散され、不安を煽られた人が買い占めに走ったことから生じた現象でした。
こうした流言は、災害や言論統制などによって知りたい情報が得られないときに、それを補う形で発生すると言われます。
すぐにスーパーや政府が「在庫が確保されているので大丈夫」という訂正の情報を流しても、この現象はなかなか収まりませんでした。
流言は、伝達者、解釈者、懐疑者、扇動者、聞き手などが絡んだ集合的相互行為であるために、それが間違いであるとわかってもなかなか収まらないのです。その背景にあるのは未知なものに対する底しれぬ恐怖でしょう。
他にも様々な流言が飛び交いました。
なんとかこのウイルスを解毒する方法はないだろうか、という人々の願いに応えるような「紅茶のポリフェノールが感染力を無力化する」とか「お湯を飲むことで予防できる」といった流言、また、自分はかかっているのだろうかという不安をなだめるような「深く息を吸って10秒止めて咳が出なければ感染していない」といった流言、またイライラの矛先を向ける対象を与え社会を分断することを目指した「新型コロナは中国が作った細菌による」といった流言。
どれもまことしやかに囁かれ、それを信じた人は善意から熱心に拡散していきます。
こうしたネット時代に生きる私たちは、被害者にも加害者にもならないよう、溢れる情報がフェイクなのか、正しいのか、見極める目を持たなくてはなりません。それにはどうしたら良いでしょうか?
少しお話は変わりますが、骨董品を商う古美術商と言われる人がいますね。行方不明になっていた名画が彼らの間からポッと出てきた、とか、何か不思議な世界に見えます。
彼らは、大変な目利きでないと商売ができないだろう、と思いますが、そんな目を持てるまでには膨大な時間がかかるし、目利きになれるような人はそういるものではないそうです。それでは骨董を仕入れるとき、どうすれば良い品を仕入れられるのか?それは、シンプルなことのようですが、信頼できる人から仕入れる、ということに尽きる、と。
情報も同じことです。どこの誰が言っている事なのか、情報のソースをしっかりと確認しましょう。
また、情報過多な世の中、長時間繰り返しネガティヴな情報に晒され続けることは、大きなストレスをもたらします。必要な情報を得る時間帯や方法を限り、この災害とは別に流れている時間、自分の世界を大切にしましょう。
自分の心にエネルギーをくれるような好きな活動に従事する、好きな人と話す、好きなものを見る、などの工夫をして、自分の心をメンテナンスしてあげましょう。
パンデミックを乗り越えようと活動している人の温かさや絆に触れるのもいいですね。ほっと癒されます。
災害、パンデミックの次のフェーズは「後パンデミック期」(前の状態へ急速に回復)です。希望を持って乗り越えましょう。
