
社会学科コラム
【社会学部】道端ですれ違うとき
次のような場面を想像してください。あなたが街で道を歩いていると、向こう側から知らない人が歩いてきました。このあと、あなたはその人とすれ違うことになりそうです。この場面で、あなたならどのような行動をしますか?
おそらく、多くの人は次のように行動するのではないでしょうか。相手が遠くに見えた時点で道の片側に寄り、すれ違う瞬間は視線をそらす。チラリと相手を見ることはあってもジロジロと見ることはせず、声をかけることもない......
要するに、「気にしていないふり」をしてその場をやり過ごす、ということですね。しかし、私たちはなぜ、道端で人とすれ違う時に「気にしていないふり」をするのでしょうか。このように尋ねられると、ほとんどの人は「何となく」や「当たり前だから」と答えるでしょう。それに対して、社会学は少し違った答え方をします。この疑問に対する社会学の答えは、次のようなものです。
「現代の都市には、『見ず知らずの相手には無関心であるべきだ』という暗黙のルールがあり、私たちは意識しないうちにそれに従っているから、道端で知らない人とすれ違うときに気にしていないふりをするのだ」
少し狐につままれたように感じる人もいるかもしれませんから、少しだけ補足することにしましょう。冒頭の質問では「街で道を歩いているとき」といいました。これがもし、「田舎で道を歩いているとき」だったとしたらどうでしょう。もちろん、現代であれば「気にしないふりをする」こともありえますが、挨拶や会釈をする、といった行動でもいいように思いませんか。立場を変えて、すれ違う人から挨拶をされる場合を考えてみても同様です。田舎であれば挨拶をされても違和感はなさそうですが、街で知らない人にいきなり挨拶されると、きっとびっくりしてしまいますよね。
このように、道端ですれ違うという似た状況でも、それが街(都市)なのか田舎なのかで、人々が適切だと感じる行動は変化します。それは、時代や場所が違えば、そこに存在する「暗黙のルール」が異なるからです。社会学は、こうした人々の行動の背後にある「暗黙のルール」について考える学問です。そしてその際に、社会学では観察、インタビュー、アンケートなどのさまざまな手法を使って、人々の行動や考えについてのデータを集めます。
実は、今回紹介したのは、アメリカの社会学者E. ゴッフマンによる「儀礼的無関心」という議論の一部なのですが、彼はフィールドワークの達人としても有名です。人々の行動の細部にまで注目する鋭い観察眼に基づいたデータがあるからこそ、半世紀以上経っても、ゴッフマンの議論は説得力のあるものになっているといえるでしょう。
参考文献
Goffman, E., 1963, Behavoir in Public Place: Notes on the Social Organization of Gatherings,The Free Pless of Glencoe.(= 1980, 丸木恵祐・本名信行訳『集まりの構造――新しい日常行動論を求めて』誠信書房. )