心理学科ニュース

202508.18
心理学科ニュース

【心理学部】犯罪心理学の専門演習Ⅰ(ゼミ活動)において神戸連続児童殺傷事件の犯罪現場を実際に歩いてみました。

犯罪心理学を専攻する私のゼミでは刑事裁判の概要や事件の背景を学生が調べ発表を行います。特に連続殺人、通り魔殺人等の殺人事件については犯人(被疑者)の動機の解明に重点が置かれます。

事件発生時の新聞記事、ニュース映像、裁判の判決、事件を扱った書籍、映画など様々な媒体を使って事件を紐解きます。

今はネットを調べれば様々な記述を収集することが出来ますが、新聞やニュース映像と異なりネット上には出所不明な情報も溢れていますので、その真偽を確認し、事実を認定する力が求められます。

動機の解明は、犯人の年齢や生い立ち等の家庭環境、経済状態、趣味嗜好、性癖、犯行地との関連性など様々な要因を検討することが必要です。

成人事件で公開の裁判が開廷され、判決等の裁判記録が読み解ける場合は比較的容易ですが、少年事件など非公開の審判(いわゆる裁判)においては、推察により解明していくことも必要となります。

神戸市で1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件は、犯行当時14歳であった少年が、2月から5月までの間に小学生5人を襲撃し、2名の命が奪われるというショッキングな事件でした。

また、犯人の少年は「酒鬼薔薇聖斗」と名乗り犯行声明文を新聞社に送り付け「劇場型犯罪」と連日メディアを騒がせた事件です。

特に殺害した少年の頭部を神戸市内の市立中学校の正門の上に置くという異様な形でその犯行が発覚しました。

また胴体部分は頭部が置かれていた中学校の近くの山中(タンク山)で現場付近を捜索していた警察官により発見されます。

少年の遺体が発見されてからおよそ1か月後に「少年A」と言われている14歳の少年が逮捕され、一連の殺傷事件の犯人であることが判明しました。

毎日新聞19971018日朝刊に掲載された「神戸家裁決定要旨」の全文には、少年Aの成育歴と本件犯行に至る心理的背景について

少年は、長男として出生し、少年の両親や家族から期待されてその後生まれた弟たちと比較して厳しくしつけられて成長した。そのため、少年は、次第に、両親、とりわけ母親に対して自己の感情を素直に出さなくなっていった。

少年が小学校5年生のとき、少年らと同居していた祖母がなくなった。祖母は、厳しいしつけを受けていた少年をときにはかばってくれ、少年は祖母の部屋に逃げ込んだりしていた。この祖母の死とのつながりは不明であるが、このころからナメクジやカエルの解剖が始まった。そして、この傾向は進み、小学校6年生のころは猫を捕まえて解剖するようになった。しかし、中学校1年に進学すると、部活動や両親の定めた門限などで時間的余裕はなくなり、猫を捕らえて解剖することもできなくなり、そのころには少年の猫殺しの欲動が人に対する攻撃衝動に発展していたが、現実に人を攻撃すれば罰せられるため、その後、2年近くは、殺人の空想にふけることによって性衝動は空想の中で解消され、抑えられていた。しかし、次第に、現実に人を殺したいとの欲動が膨らんできて、少年は、学校に通ってはいたものの、学習意欲がうせ、教師に心を開かず、友達と遊ぶこともなく、タンク山で一人で遊び、自宅でも、一人で昼間からカーテンを閉めて薄暗くして遊び、雨に日を好み、殺人妄想にさいなまれていた。少年の母親には少年の気持ちを理解することはできなくなっていた。少年は、自分は他人と違い、異常であると落ち込み、生まれてこなければよかった、自分の人生は無価値だと思ったが、この世は、弱肉強食の世界であり、自分が強者なら弱者を殺し、支配することができる、などという自己の殺人衝動を正当化する独善的理屈を作りあげていった。

と記されており、少年審判では責任能力が認められました。

これらのゼミでの学習を踏まえ、犯行現場であり遺体の胴体部分が発見された「タンク山」、頭部が置かれていた市立中学校、2月、3月女児が襲われ殺傷された現場付近を実際に歩き、その距離感、また少年Aや被害少年たちが暮らしていた場所との位置関係、少年が徒歩や自転車で移動可能である距離間隔などを体験し、事件関係者の生活圏(神戸市郊外の閑静な住宅地)で実行された犯罪であることを直接肌で感じることを目的として学外授業を実施しました。

本事件の事件現場は本学の神戸山手キャンパスから神戸市営地下鉄で20分ほどの位置にあり、授業コマを使用して現場体験をすることが出来ました。

この事件は、何年も後、神戸家庭裁判所が事件記録を廃棄していたことが判明し、最高裁判所において裁判記録の保管取り扱いについて新たな制度が確立される発端となった事件でもあります。

裁判記録を多角的に分析するとこが出来れば、更なる被疑者心理の研究に大いに役立つものと思われます。

犯罪心理学を勉強する学生には記録と自らの体験による五感の作用により、生きた勉強をして欲しいと思っています。

引用文献

毎日新聞19971018日朝刊に掲載の「神戸家裁決定要旨」の全文

 (202585日アクセス)

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