
心理学科コラム
【心理学部】アサーティブな自己表現の特徴
前回、疲れないコミュニケーションのコツという記事で〈アサーティブ〉を紹介しました。
アサーティブとは、自分も相手も大切にした自己表現のことです。自分の人権のために自ら立ち上がろうとし、同時に相手の自由と人権を尊重しようとします。アサーティブな発言では、自分の気持ち、考え、信念などが正直に、率直に、その場にふさわしい方法で表現されます。葛藤が起きたら、面倒がらずに互いの意見を出し合って、譲ったり、譲られたりしながら、双方にとって納得のいく結論を出そうとします。自分がすがすがしいだけではなく、相手にもさわやかな印象を与えます。
あなたの日頃の言動はアサーティブでしょうか?日常的に関係のある家族、友人、職場の上司や仲間、先生、隣人、親戚などと、どんな付き合いをしているか思い出してみましょう。支配的な人はいますか。誰かに対して、卑屈になったり、おべっかを使ったりしていませんか。誰かを利用したり、軽く扱ったりしていませんか。多くの人は、誰か特定の人との関係や特定の状況で、アサーションができなくなることがあります。
- 親や権威者には、どんなことがあっても従うべきだと思っている場合
- 逆に、自分が親や権威者の立場にいるとき
- 過去の、ある状況下でとった、アサーティブでない反応が身についてしまい、それを無意識に繰り返しているとき
特定の人や特定の状況でアサーションができない人は、そのことにまず気づくことが大切です。自分の非主張的または、攻撃的な言動を意識することで、行動を変えるチャンスをつかみやすくなります。
アサーションの考え方と技法は、1950年代に行動療法と呼ばれる心理療法の中で開発されました。
当初は、対人関係がうまくいかず悩んでいる人や、自己表現が下手で社会的な場面が苦手な人のための、カウンセリングの方法として実施されていたそうです。それが、現在のアサーション・トレーニングの基礎となっているそうです。
1960年代~70年代のアメリカにおける黒人や女性に対する差別撤廃運動が背景となり、アサーションがより効果的・積極的に人間関係の促進に活用されるようになりました。現在では、広く日常生活の中で、習慣や慣れ合いによって起こりがちな社会的失敗を予防するために、また、学びそこなった対人関係スキルのトレーニングのために、積極的に使われています。
アサーションについて一つのエピソードを紹介します。
1960年代アメリカのレストランでの出来事です。ある黒人がチキンを食べているところを、白人たちが取り囲みました。
「おまえの来るところじゃない。出ていかなければ、おまえがチキンにすることをおまえにもしてやる」(「おまえがチキンにすること」とは、ナイフで切り刻むことを意味します)
すると黒人は、チキンにキスをしました。それを見た白人たちは、黒人に何もせず立ち去ったそうです。チキンを食べていた黒人が白人への友愛の気持ちを送ったとも捉えられ、とても印象深いエピソードです。
アサーションはうまく使えれば、他者との良い関係を築く一つの手段となり得ます。皆さんも、状況に応じて活用してみてください。
参考文献:平木典子(2021)三訂版 アサーション・トレーニング: さわやかな〈自己表現〉のために 日本・精神技術研究所
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