前回は、饒舌に喋るタイプの被疑者の取調べについてディフェンスの話をしました。
今回はオフェンスについて説明します。
被疑者の取調べにおいては、その都度供述拒否権(いわゆる黙秘権)があることを被疑者に告知しなければなりません。
これは前回説明したとおり日本国憲法に定められた権利があることを被疑者に再認識させ、取調べが法律に順じて適正に行われていることの担保でもあります。
そのため午前中に取調べを行った被疑者に対して、ハーフタイムの後の午後からの取調べにおいても午前中同様告知する必要があるのです。
自ら喋っている被疑者にとっては、午前中に同じことを言われているため「分かってるからいいよ」と言う者も多々います。
そして、また自ら自分のペースで話をしようとする者も多いのです。しかし、ここからは取調べ側のオフェンスつまり攻撃です。
オフェンスでは、ディフェンスと違い被疑者のリズムで話を進めることはしません。
取調官から前回の被疑者の供述を要約し、その内容の再確認をします。
その後、前回の取調べにおいてピックアップした矛盾点の追及が始まります。
被疑者にとっては、自分の話の内容に疑念を挟まれ(ケチをつけられ)たり、「嘘をついているな」と言われているわけですから楽ではありません。
もちろん被疑者自身のペースで喋ることは出来ませんので、ストレスは大きくなっていきます。
取調官が追及するポイントは、当然のことながら被疑者本人にとって都合の悪いこと、不利益なこと、認めたくないないことばかりです。
そのため、前回と異なりは口を紡ぐことが多くなっていきます。
つまり、喋らなくなるということは被疑者にとって不利なことを追及されていることの裏返しで、ある意味事件の核心と言えます。
そして喋らないということは、その否認(認めない、黙っている)している事柄に関しては、それまでの取調べにおいて真実ではなく嘘を言っていたということです。
オフェンス側から言えば、客観的証拠等との照合により導き構成した捜査側のストーリーが真実であるということです。
捜査側が間違った見立てをしていれば、饒舌な被疑者であれば一笑に付し、間伐入れずに自分の語るストーリーをもう一度語り出します。
饒舌に語っていた被疑者が黙ってしまい、何も喋らなくなった事柄について被疑者の口から真実を引き出すことが出来れば取調官の勝利となります。
そのためには、取調室における話術はもちろんのこと、事前の準備が大切です。
スポーツで言えば練習に練習を重ねて試合に勝つということでしょうか。
証拠品をよく精査して時間の糸を繋いでいったり、事件現場に至るまでの過程や、犯行後の逃走経路等事件の動きの把握は必須です。
事件の核心部分についてあらかじめの被疑者の供述の矛盾を突き、質問する場合、私は何も見ず質問するようにしていました。
被疑者の前でメモや資料を見ながら取調官が被疑者に質問すると、被疑者には取調官が自信をもって取調べに臨んでいないという印象を持たれると考えていたからです。
その為客被害者の供述や、客観的証拠から判明している事件の核心に触れる事実は事前に頭に叩き込むことにより、被疑者の目や体の動きを注視して取調べにあたっていました。
嘘を言う時人間は、目が泳ぐとか、汗をかくとか体に様々な特徴が出ます。
私が一番取調室で感じていたのは、口の中の渇きとそれが進むことにより唇や舌が真っ白になるということです。
ポリグラフ検査により生理的特徴が検出できますが、見た目でも人間にはある程度共通した変化があり、取調室でその変化を読み取り真実の追及のタイミングを計るのも取調官の仕事と言えるでしょう。
犯罪心理学を学ぶことによりメンタル、フィジカル両面において犯罪被疑者の特性を習得し、警察官になり取調べに従事すれば学習効果を実感することが出来ると思います。
今回お話ししたオフェンス、前回のディフェンスの話は一例です。
すべてこの様に話が進むわけではありません。また取調べは取調官毎に独自の手法があり、絶対的セオリーはありませんが、経験と知識を積み重ねることによって練度は確実に上がります。
また逮捕後警察の留置施設に拘束した被疑者の取調べは、最長概ね20日間がタイムリミットです。
タイムリミットを過ぎた場合、逮捕に掛かる犯罪の事実で被疑者を取調べることは出来ません。
そのため限られた取調べの時間の中で、適法に適正な取調べを行い、裁判での証拠となり得る供述調書を作成することが取調官の任務と言えます。