心理学科コラム

202410.08
心理学科コラム

【心理学部】『取調べ』⑧

前回から被疑者の取調べについて警察庁作成の資料『平成2412月警察庁刑事局刑事企画課「取調べ(基礎編)」』に基づいて解説しています。

前回は「(1) 自発型虚偽自白」について説明しました。

今回は続いて「(2) 強制・追従型虚偽自白」について進めて行きたいと思います。

「取調べ時の不快感や不安等により、不利益な事項を認めることによる当面の利益(取調べの終了、釈放等)が将来の問題(起訴、受刑等)より重要であると判断した場合、真実でないと認識している不利益な事項を自白する者がいる。」とあります。

 取調べを受ける半数近くの被疑者は、初めて留置施設に拘禁され、警察官の取調べを受けます。

 今まで、自由な生活をしていた者が、行動の自由を奪われ、取調べ以外は警察署等にある留置場と呼ばれる鉄格子が入った部屋に閉じ込められるのです。

 8畳から10畳ぐらいの部屋です。

 中にはトイレがあるだけです。洗面所もありません。 その中で、2,3人の留置人と一緒に起居を共にします。

 もちろん同居人も被疑者として取調べを受けているものです。

 留置人は名前ではなく、番号で呼ばれます。

 ある日突然そのような生活になったと想像してみて下さい。

 窮屈な生活環境の中、警察署の取調室での取調べの日々が続きます。

 逮捕された被疑者が、これからどの様な手続きにのっとり、自分はどの様になっていくかその知識がなければ不安しかないというのが想像できるのではないでしょうか。

 その結果、一日でも、一分でも早く外に出て、今までどおりの暮らしがしたいと思うのは当然の心理と言えるでしょう。

 そのため上記の「不利益な事項を認めることによる当面の利益(取調べの終了、釈放等)が将来の問題(起訴、受刑等)より重要であると判断した場合、真実でないと認識している不利益な事項を自白する者がいる。」ということになるのです。

 捜査側にとっても非常に危うい状態です。

 釈放されたいがため「やってないことを、やった。」との供述を鵜のみにして捜査を進めると冤罪を生むことになります。当然被疑者にとっても大いなる不利益ですが、そのことに気付く余裕がありません。

 前述の資料では、「この場合、被疑者取調べの相手方は、自白した結果、将来起こり得る結末について認識している場合もあると考えられるが、「裁判になれば、いずれ真実は明らかになるだろう。」、「検事や裁判官なら分かってくれるだろう。」等と信じ、確かではない長期的な結末より目先の利益を優先してしまうことがある。なお、この種の虚偽自白は、弁護人や親族との面会等によって、取調べを受けている時に感じていた不快感や不安等が消滅した直後に撤回される可能性がある。」とあります。

 思い込みと言えると思いますが、「釈放されることが自分の利益」と考えるあまり、その先の裁判、検事、裁判官に関して自分の都合がいい様に考え、他に一切考えが及ばないようになってしまいます。

この様に、不安が増大した被疑者は前述のような心理状態になる虞があることを取調官は十分に認識し、被疑者の供述が「強制・追従型虚偽自白」ではないか慎重に見極める必要があります。

資料では、「この種の虚偽自白は、弁護人や親族との面会等によって、取調べを受けている時に感じていた不快感や不安等が消滅した直後に撤回される可能性がある。」とあるととり、第三者から説明を受け被疑者本人が落ち着いて将来を認識することが出来た途端、供述を翻すということです。

取調官は、この経緯を念頭に入れ、被疑者の心理を見抜き、供述の信用性を吟味していく能力が求められるということです。

関連記事:

【心理学部】『取り調べ』①

【心理学部】『取り調べ』②

【心理学部】『取り調べ』③

【心理学部】『取り調べ』④

【心理学部】『取り調べ』⑤

【心理学部】『取り調べ』⑥

【心理学部】『取り調べ』⑦

【教授 髙橋 浩樹】

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE
  • Twitter