国際交流・海外プログラム

202003.21
国際交流・海外プログラム

グローバルスタディ(アメリカ/シアトル)での調査-ワシントン大学警察、ドラッグコート、薬物矯正施設、DEAなどを訪問して-

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グローバルスタディ(アメリカ/シアトル)では、薬物と虐待に関する調査について、キング郡にある11の施設を訪問する予定で、2月25日から3月5日までの10日間、滞在した。今回は、そのうち、薬物関係の調査についてのみ、報告する。


まず、ワシントン大学構内に設置されたワシントン大学キャンパスポリスには3日目に訪問し、ある薬物の簡易検査キットを用いて、検出実験を体験させていただいた。学生は予め、少量の樹脂を受け取り、小さなナイロン袋に入れる。その後、小袋内に入っている3種類の液体試薬を順次、開封することによって、最後は樹脂が赤紫色に変わり、大麻であることが判明した。実際の裁判で証拠とするには、科学捜査研究所の専門研究員によるガスクロマトグラフィを用いた正式な鑑定が必要となるが、現場で警察官が疑わしい薬物の種類を見極めるには、このような方式が使われる。簡易検査とはいうものの、警察官でもない学生が、日本の警察機関では決して経験することがないので、きわめて貴重なものとなった。


次に、キング郡の裁判所を訪問し,ドラッグコートがどのようなものかについて講義を受け、その後、開廷中の裁判を実際に見学した。1994年から、キング郡ではドラッグコートが導入され、薬物関連で逮捕された容疑者は、起訴された段階で一般の刑事裁判か、ドラッグコートかを選択できるようになった。ただし、ドラッグコートを選択できるのは、薬物の売買・運搬・使用に関わった被告のみであり、それ以外に性犯罪や凶悪事件にも関連していると選択権は認められない。ドラッグコートは罪を罰することよりも、薬物依存から離脱させることを目指しており、プログラムを最後まで遂行すると、減刑されるか、もしくは無罪になる。しかし、最後まで全うできない被告には、一般の裁判よりもかえって不利な裁判結果になることもある。対象となる被告の年齢は25-34歳が最も多く、その次が18-24歳で比較的、犯罪性の進んでいない若年層に適用される制度と言えよう。


また、SEADRUNERという民間施設も訪れたが、ここは薬物中毒からの立ち直りを援助する団体である。麻薬や大麻などの薬物を使用すれば、日本では警察に逮捕され、少年院や刑務所に送られるだけであり、そうした施設を出た後に、薬物からの矯正を援助するために長期間、生活するような場所はない。SEADRUNERにくると、最初はまず、麻薬などを体内から除去する薬物を注射して、3-4日間をほとんど寝て過ごす。その後、カウンセリングを受けながら、薬物に2度と手を出さないように、携帯電話も郵便物も使えないほか、外出も禁止され、完全に外部と遮断された状況で60日間、生活する。さらに、5ヶ月間は入所者の中で食事係・掃除係といった一定の役割が与えられ、一種のコミュニティを形成したような期間に入る。注目すべきことは、必要であれば、妻や夫、子どもと呼び寄せて、1階のフロアで同居して過ごすことができるという点である。ここでは、日本の刑務所のような監視カメラもなく、施設の中で昼夜を問わず、見回りをする人もいない。それが過ぎると、2階に移り、就職に向けた社会復帰活動をするので、外出も可能になる。さらに、場合によっては、外来で半年間、通うこともできる。アメリカではこうした施設がどの地域にも複数あり、極めて多様性に富んでいる。人種によって分けられていたり、妊婦用のプログラムも存在するようである。ドラッグコートとの共通点は、子どもがいる者にとって、親の犯罪によって子どもの生活が苛まれないように、手厚く保護されているということである。薬物依存から脱出するには家族の役割を重視するというアメリカらしさが感じられた。


このほか、麻薬取締局(Drug Enforcement Administration:DEA)も訪問して講義を受けたが、DEAは違法薬物の捜査に特化したFBIのようなものである。アメリカではそれほど薬物の犯罪が多く、深刻である。実際のところ、ダウンタウンのあちらこちらで見られるホームレスのほとんどが薬物と関係している。薬物に関わったためにホームレスになったのか、ホームレスになったために薬物依存で現実逃避をしているのかわからないというほど、薬物とホームレスには関連性が強いとのことであった。


我々が生活している日本には、DEAとういう薬物専従の捜査組織もなければ、ドラッグコートという裁判制度もない、まして、薬物依存から抜け出す民間組織は、日本ではダルクのみである。換言すれば、アメリカの薬物依存ほど、我が国の実情は深刻でないのかも知れない。そして、アメリカでは州が薬物依存者に対して莫大な公的予算をつぎ込んで、矯正を援助していることが、我々の調査の結果、判明したといえよう。


さて、そこで我々が、今回、入手したさまざまの情報をどのようにすれば活用できるであろうか。キング郡やシアトル市で学んだ制度や組織は、確かに薬物依存者の矯正に手厚い制度であることは間違いが無い。しかしながら、それらを我が国へそのまま持ち込めるかと問われると大いに疑問である。まず、多くの日本国民は多大な税金を薬物中毒者のために費やすことに果たして同意するだろうか?今後、薬物犯罪が日本でもアメリカ並みに深刻化したときには、アメリカの法制度や組織を適用するべきかも知れないが、当面の日本では何を優先して治安の維持を実行していくべきであろうか?それはこれからの事後学修で学生が討論し、報告会までにまとめることにする予定である。(写真は、キング郡青少年センターにて)


(人間心理学科 中山 誠)

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