心理学科ニュース

202106.02
心理学科ニュース

【心理学部】グローバルスタディ報告会 『 アメリカ合衆国と我が国におけるCOVID19の影響による犯罪情勢の変化 』

5月29日、グローバル教育センターの主催で2020年度冬学期グローバルスタディ報告会をオンラインで実施しました。今回は、covid-19の感染禍のため、海外に行くことはできませんでしたが、インドネシア、カンボジア、フィリピン、ブータン、ブラジル、ベトナムとインターネットを駆使して様々な交流を実施することができました。

以下は、2020年のシアトルと我が国の犯罪情勢の変化について、人間心理学科の学生が調査してまとめたものです。

1. 問題の所在

2020年3月から、世界中でcovid-19によるパンデミックが生じ、各国はロックダウンを含む強い処置を講じてきた。しかしながら、アメリカでも我が国でも多数の感染者が出て、経済活動は最悪の状態に陥り、人々を取り巻く環境が激変した。我々は、コロナの感染拡大が、2020年の犯罪情勢に及ぼした影響を日米間で比較するための調査を実施した。

2. 方法

A:シアトルでの調査

・シアトル市警のHPで、過去5年間の犯罪の認知件数の変化を調査

・ワシントン大学警察、ワシントン州児童相談所、シアトル総領事館にメールで質問  

・その他に、地元の報道機関のHPで犯罪の記事を検索

B:国内調査

・兵庫県警生活安全企画課に赴き、最近の犯罪情勢について講義を受け、質疑応答

・愛知県警と静岡県警に電子メールで発生件数を照会

・警察庁と法務省のHP、e-stat活用して、2020年の刑法犯の認知件数を調査

3. シアトルでの調査結果

①シアトルでは殺人、放火、窃盗、恐喝と詐欺が増え、強姦と麻薬は減少
②シアトル領事館によれば、治安は悪化しているが、コロナの影響ばかりとは言い切れない。在宅勤務が増えたことで、空き部屋となった会社の事務所荒らしが増加(窃盗)したほか、コロナ給付金詐欺やコロナ関連の強要(ゆすり)が増えている
③自宅にいる機会が増加したので、DVが増えることが予測されたが、児相での照会結果でDVは増えていないことが判明
④シアトルタイムスによれば、殺人事件や銃による傷害事件の著しい増加はコロナ感染でストレスが爆発したことが原因のひとつと新聞報道


⑤以上の他に

(1)「ウイルスの感染源は武漢」とする大統領発言がきっかけで、アジア人へのヘイトクライムが急増
(2)ミネソタ州で黒人が警察官に殺害された事件に端を発し、シアトルでも最初は黒人差別に反対する運動が起き、その後、一部の市民が暴徒化して街の一角を占拠。シアトル警察は鎮圧に乗り出したが、市長が警察の動きを妨害し、市議会も警察の予算と人員の削減を議決。警察本部長は辞任し、200人の警察官が退職、警察組織は大きく弱体化。

4. シアトルと日本の犯罪情勢の比較

2020年にシアトルでは殺人・放火・強盗が増えていたが、日本では全般に犯罪は減少しており、凶悪事件も増加していない。我が国で増加したのは、児童虐待、大麻事案、サイバー犯罪であるが、これらは、近年、継続的に増加しており、コロナ禍が原因で急増したとは考えにくい。コロナ関連の一時金の不正受給や、コロナに絡む詐欺事件の報道も多く見られたが、警察庁の統計資料ではこれらの詐欺事件は前年から増えていない。その他では、休業要請に応じないパチンコ店をネット上で攻撃する行為が見られた程度である(自粛警察)。

シアトルにはマイクロソフトやamazonなどの大手企業があり、コロナ禍で市民の収入の激減や、ストレスや不満の爆発で治安が悪化した可能性も挙げられるが、ヘイトクライムやBLM問題も考えられ、複雑である。また、アメリカの場合、2005年にハリケーンでニューオーリンズの街の80%が水没した際には、一部が暴徒化し、略奪行為が多発したが、今回はシアトルでもBLM運動に関連して同じような暴徒化と略奪事件が発生している。

一方、我が国ではcovid-19の感染拡大による犯罪の増加を示す明確なエビデンスは得られなかった。さらに、日本では阪神淡路及び東北の震災でも、一致団結して、相互援助を行い、災害に伴う様々な現象が犯罪の増加に結びつかないことは明らかである。

(心理学部 教授:中山 誠)

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE
  • Twitter