心理学科ニュース

202203.09
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【心理学部】堀尾強先生の最終講義のコンテンツ

堀尾強先生.JPG

最初に、堀尾先生が学位を取られた論文について紹介があり、ラットを使った実験の結果、世界で初めての知見を見いだしたとの説明がありました。その業績が評価されて、口腔生理学の父と呼ばれる先生からの紹介で甲子園大学に着任し、そこから本学での12年間を含めた長きにわたる研究人生の中で「おいしさ(味覚・嗜好)の研究」を数多く行ってこられました。

今回の講義では、それらの研究の紹介が中心であり、その内容を簡単にまとめていきたいと思います。

1.うま味について

先生が研究を始めた当時は、甘味・塩味・酸味・苦味の4つが基本味であり、うま味は甘味と塩味の合成であると主張する研究者も多かったようです。

そうした中、そのうま味に注目するだけでなく、その当時研究されていなかった「あと味」にも注目して研究を行いました。その結果、うま味のあと味の持続期間が、他の味よりも長いという特徴を発見されています。

このように、先生は、まだだれも注目していない分野に挑戦し、アイデアで勝負しようというスタンスで研究を進めてきたと述べていました。

2.おいしさを他覚的に測る

次に先生が注目したのは、味に対する表情の研究でした。そして、様々な味覚を感じたときに、表情を作る顔の筋肉はどのくらい活動するのかについて、筋電図を用いて研究を行いました。

その結果、嫌いな味ほど表情筋に大きな反応が出て、そうでない味だと反応が少ないということを見いだしました。また、同じ研究を表情筋ではなく、心拍数で検討した結果、同じように嫌いな味では心拍が高まるとの結果が出ましたが、好きな味でも心拍が高まることを見いだし、嫌いな味かどうかは表情筋の活動で見分けられるということを発見しました。

3.おいしさに影響する要因

さらに、研究の幅を広げ、様々な味をおいしく感じるのはどういった時なのかについて注目しています。そして、運動後には甘味と酸味を好むようになるということを見いだしました。

その結果は、湿度や温度などの環境を変えても同様であり、さらに環境によっては運動後に塩味も好むようになるということが確認されました。また、味の好みについては妊娠によって変化するということはよく言われていますが、それを科学的に検証しようともしております。

その結果、妊娠初期、中期、出産後で好きな食べ物嫌いな食べ物の変化はあったものの、味への敏感さに変化はなかったとのことでした。

4.食品テクスチャーとの関係

今度は食べ物の硬さや柔らかさや形などと、おいしさとの関係について注目し、研究しています。

その結果、固いものでも柔らかいものでも、あまり噛まずに飲み込んでしまう早食いの人が2、3割いるということを発見しています。また、食べ物の形については、三角形のようにとがった部分がある場合よりも、丸いものが好まれるという傾向も見出しています。

このように、口の中では形を認識することができ、とても敏感な器官であるとのことでした。

5.嗜好の決定にかかわる要素 ~遺伝か環境か~

おふくろの味という言葉がありますが、好きな味は遺伝の影響を受けるのか、環境の影響を受けるのかについても検討しています。

その結果、母と子、兄弟姉妹との間でみそ汁の好みの濃さが似ているという結果を得ています。また、1か月間薄味の味噌汁を毎日飲むといった環境で、味の好みは変わるのか検討したところ、変化しなかったとのことでした。その結果から、味の好みは遺伝によって決まると断言はできないようですが、非常に興味深い研究結果だったと思います。

ほかにも、食べ物の好き嫌いはいつ頃変化するのかなど、日常の疑問に答えるような研究内容が紹介されました。

6.食事との関係

お腹が減っていれば、嫌いなものでも食べてしまうかもしれません。そうした疑問に答えるような研究として、好き嫌いと満腹感との関係についても検討しています。

実験の結果、満腹中枢を破壊され、満腹感を感じなくなったマウスであっても、基本的には好きなものは多く食べ、嫌いなものはあまり食べないという結果が得られたと言います。また、人間についても、満腹状態であると、薄味のものをおいしく感じなくなるといった変化があり、満腹感が好き嫌いに与える影響もあると考えられました。

7.年齢要因

遺伝や環境だけではなく、加齢によっても味の感じ方は異なると思います。そうした日常的に当然と思われているようなことに対しても、先生は積極的に検証を行っています。そして、高齢者は若者に比べて味を感じる感度が鈍くなるという結論を導き出しています。

しかし、その変化は個人差が非常に大きいとのことで、高齢者でも若者と同じような味の感じ方ができる人がいるようです。そのため、その原因は何なのかといった疑問を解消するために、さらなる研究が必要であると述べていました。

8.疾病との関係

最後に、疾病と味覚との関係についての研究が紹介され、糖尿病の人や人工透析を受けている人は、健康な人に比べて味を感じにくいという結果が示されていました。

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今回の講義では、ここに解説した研究以外にも色々と興味深い研究が紹介されており、また、講義中には紹介しきれない数多くの「おいしさに関する研究」もあります。そのようなおいしさや味のスペシャリストである先生の最後のメッセージは「味を意識して食事を楽しみましょう」であり、それがWell-Beingにつながるとのことでした。

先生の講義を聞くことで、食事の大切さや奥深さ、味わうことが人生を豊かにする可能性などについて理解できた気がします。

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【心理学部 心理学科 講師 神垣 一規】

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