看護学科コラム

202005.27
看護学科コラム

【看護学科】『"飲むこと"、"噛むこと" "育つこと"~赤ちゃんと吸啜・咀嚼の話①~』

【ヒトにとっての咀嚼】
人類の祖先とされる"猿人"は今から500万年前に直立2足歩行を始めたとされています。そのころの"猿人"の脳は現在の人類の脳に比べ小さく、言葉を持たずに口に入れた食べ物は噛まずに飲み込むという生活をしていたといわれています。100万年くらい前に現れた"原人"たちは火を使い、肉や魚を焼いたり、煮たりすることを覚え、柔らかくなった食物を「顎を使い、噛んで食べる」生活を手にしました。これから生活様式の変化を経て人類の脳は進化していったと考えられています。

古来より、人類の「噛むこと(咀嚼)」と「脳の発達」には密接な関係があります。赤ちゃんの成長についても同じ。咀嚼運動は顎の鍛錬と唾液の分泌を促すことはもとより、脳の発育にも良い影響があることがわかっています。


【咀嚼運動による脳の活性化】
現代人より顎が発達していた縄文人や弥生人の1回の食事における咀嚼回数※は4000回、鎌倉時代では約2800回、江戸時代から戦前にかけては1500回。戦後は急速に減少し、半分以下の600-700回(齋藤滋、よく噛んで食べる-忘れられた究極の健康法、NHK出版、2005)。食文化が欧米化したことが原因といわれています。

一回の食事をとる際の目安として、15分以上の時間をかけ、1500回以上の咀嚼回数が理想です。

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【赤ちゃんの"吸啜・咀嚼"と脳の発達】
生まれたばかりの赤ちゃんには歯は生えていません。赤ちゃんにとっての「噛む(咀嚼)」行為は、「おっぱいを飲む(吸啜)」行為なのです。赤ちゃんは1回の哺乳で顔全体の筋肉を使い、顎をダイナミックに動かし、15~20分かけて母乳を飲んでいます。実は母乳を飲む(吸啜)時のこの活発な顎や舌の動きが、将来の"噛む(咀嚼)"力の基礎を作るのです。

生まれてすぐに始まる"おっぱいを飲む(吸啜)"ことは赤ちゃんがまず、最初に習得しなければならない運動。この吸啜運動が顎の骨や筋肉の発達を促すとともに、脳細胞への血流を活発にし、運動や言語能力など様々な機能をつかさどる脳機能の活性化を促します。

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【母乳の吸啜を通じた母子相互作用】
生まれたばかりの赤ちゃんは、最初は母乳がうまく飲めません。お母さんの母乳も最初からあふれるようにたっぷり出てくるわけではありません。赤ちゃんは"吸啜"を通じて母乳の分泌を促します。お母さんの体は赤ちゃんの吸啜刺激に反応し、母乳の分泌が始まります。

誕生したその日から始まる母乳育児を通じて、赤ちゃんはしっかりと顎を動かし、ゆっくり時間をかけて食事をする(おっぱいを飲む)ことを学びます。出産を終えたばかりのお母さんと赤ちゃんは、お互いを確かめ合いながら、折り合いをつけながらの母乳育児という共同作業を通じて母子のきずなを深めていきます。これが将来の「食べる力」「育つ力」「生きる力」を育んでいきます。 

【保健医療学部 看護学科 松原 まなみ 教授】

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