看護学科コラム

202006.22
看護学科コラム

【看護学科】『性行為で病気になるって知っていますか』

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第8回青少年の性行動全国調査によると、高校生の性交経験率は女子19.3%、男子13.6%で、2005年時の約30%を最高に減少傾向が続いています。
高校卒業年の18歳は、選挙権もあり、民法上、本人の意志のみで結婚することもでき、婚前の性交は当たり前の時代になりました。しかし、高校生の初交体験は本当に本人が真剣に考えた相手との体験なのでしょうか。

数年前、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染率と予防ワクチンに関する研究をしていた際に、被験者として研究に協力してくれた学生がHPVのハイリスク型に感染していました。

この学生は、子宮頸がんの検診の結果、異形細胞が陽性で、3か月毎の継続的検査をすることになったのです。
彼女は、「高校生の頃に2人の男性と性的関係を持った。特に好きだという訳ではなかったけどなんとなく経験した・・。中学時代に先生の性教育を受けていたら、セックスなんかしなかったのに・・」と涙ながらに語ったものです。

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誰も自分が性感染症に感染するなんて思わずに初交を経験します。「性交はどんなものか早く経験してみたい、高校生で経験していないのは遅れている」と、誤解している生徒もいます。しかし、性交を焦る必要はないのです。特に女子では、妊娠や性感染症に罹患する問題があり、その後の人生に大きく影響します。

高校1年生のA子さんは妊娠を疑って受診してきましたが、妊娠だけでなく、尖圭コンジローマに感染していました。高校生に対する調査で、「性交時に妊娠と性感染症のどちらを意識しますか」と聞いた結果、殆どが妊娠を気にしていて、性感染症と答えた者は10%以下でした。性の健康医学財団のメール相談では、逆に正確な知識がないために、必要以上に性感染症を心配して相談してくるケースもあります。性感染症に関する正確な知識を高校卒業までに学んでおいて欲しいものです。

ここ数年、若い女性の梅毒の感染者が増加していますが、その原因が解明されないままに、梅毒感染者は増え続けて、その影響は赤ちゃんにまで及んで、先天梅毒児の問題が大きな話題になっています。

日本性感染症学会では、梅毒の診療ガイドを作成し、一般医科や国民に対する啓発活動を始めています。
性感染症は、性交に伴って感染が拡大する疾患の総称で、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマは、定点把握4疾患で、梅毒やエイズは全数報告が必要な疾患です。特にクラミジア感染症は、高校生や大学生に感染者が多くなっています。これは自覚症状がなく、知らないうちに相手に感染させており、この感染症があるとエイズに感染する率が約4倍高くなるといわれています。

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性感染症に関する知識を、何時、何処で、誰が伝えるか、日本性感染症学会や日本思春期学会で性教育のあり方に関する検討が続いています。
また、性の健康医学財団では7年前から「性の健康カウンセラー」の養成を始めています。

性行為は極めてプライベートな行為で、理性では危ないと思いつつ、感情に任せてしまい、後で後悔する姿も目立ちます。性行動を自己管理するためには、性に関する知識を持つことは勿論、幼少期から自分の欲求を我慢する経験や自分を客観的にみて、批判できる心を育てることが大切です。

性教育のねらいは「豊かな人格の完成」であり、性の持つ「生殖性、連帯性、快楽性」の3つの側面をバランスよく身につけて、自分の性の価値観を持つようにしたいものです。性は、命を生みだす行為であり、共に生きる伴侶との出会いのなかで、相手をいつくしみ愛する心で快楽を共有していくものです。いたずらに快楽のみを求めてはいけません。

私は、学生と共に「命のバトン」をテーマに中学・高校での性教育を行っています。その教材を元に、厚生科研の助成金を得て、「義務教育における性感染症予防教育教材の開発」を進めています。今年はこの開発した教材を試用して評価し、学校で活用できるものとして完成させていく予定です。

【文献】
日本性教育協会編:「若者の性」白書,第8回青少年の性行動全国調査報告、小学館、2019

【保健医療学部 看護学科 齋藤 益子 教授】

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