看護学科コラム

202011.17
看護学科コラム

【看護学科】『遺伝子レベルの健康づくり』

私たちの体は37兆個の細胞からできています。皆さんが高校の生物の時間で習ったように細胞の中には核があり、その中に染色体があります。そして染色体を構成するDNAが私たちの体を構成するタンパク質の設計図をもっています。この設計図は一人一人異なります。そのために、私たちは外見や性格が一人一人異なるわけです。大切なことは、病気のなりやすさにも一人一人異なるということです。同じ様に食べても肥る人と肥らない人がいるのはこのためです。

個体差の一つに、テロメアの長さがあります。一つの細胞の核には46対の染色体があります。染色体とはDNAが凝集したものですが、その染色体の両端にはテロメアというキャップのような部分があります。
多くの細胞ではこのテロメアは細胞の分裂の度にどんどん短くなっていくことがわかっています。短くなるスピードが速いほど、老化が早くすすむということです。

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老化は自然現象ですから、テロメアが短くなるのは当然です。しかし、困ったことにテロメアが短くなる度にDNAの設計図どおりに体が働くことが難しくなります。これはテロメアが短くなる度に、DNAを修復したり、タンパク質を分解・再利用する速度が遅くなり、DNAや細胞を構成する膜などに障害が残り、働きが悪くなるからだと言われています。このために、さまざまな病気を引き起こしてしまいます。

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例えばアルツハイマー病という脳内にアミロイドβと言うタンパク質が蓄積することで起こる病気があります。
アミロイドβは若い人の脳にもありますが、通常は掃除をするための酵素がきちんとあって、蓄積することはないのです。ですから、皆さん方は学校で習った事を記憶することができます。ところが、脳の中のある細胞のテロメアが短くなると、細胞の機能が低下し、アミロイドβが掃除されずにどんどん蓄積するようになります。そのために記憶力が低下し、さっきしまったばかりの鍵の場所はおろか、自分の子どもの名前すら覚えられなくなってしまいます。

でも、幸いなことに私たちはテロメアが短くなる時間を遅くすることが可能なのです。
食事、運動、休養に気をつけるという今までの健康づくりの方法は同じです。ただ、人により病気になりやすさが違うので、どのような食事をとったらいいのか、どのような運動をどれほどしたらいいのか、また、ストレスはどの程度まで耐えられるのか、これらは人により異なるということです。
遺伝子レベルの検査ができると、一人一人にあった食事の食べ方や、運動の仕方のプログラムを作ってもらうことができます。つまり、今よりももっと効果的に健康寿命を伸ばすことが可能になると言うことです。

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皆さん方が働くようになった時、あるいはこれから10年くらい先には、このように遺伝子治療やiPS細胞を使った再生医療が当たり前の時代になっているかもしれません。そして私たち看護職の仕事もどんどん進化していきます。このようなワクワクする世界で一緒に働いてみませんか?

【参考文献】
Fossel, M. (2015). The Telomerase Revolution: The Enzyme That Holds the Key to Human Aging and Will Lead to Longer, Healthier Lives. Dallas: BenBella.

【保健医療学部 看護学科 川畑 摩紀枝 教授】

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