観光学科ニュース

202104.23
観光学科ニュース

【観光学科】プロジェクト・マネジメントの極意 1 ~ビッグ・プロジェクトの危機を救ったボールペン~

商社マン時代、国内、海外でいくつものプロジェクトのプロジェクト・マネージャー(以下「PM」と略します。)を務めて来ました。
一つのプロジェクトは、ちょっとしたアイデアから生まれます。まずは、たくさんの文献、資料、論文を読み漁る予備調査を行い、多くの関係者と会って関係を築き、基本コンセプトとラフデザインができたら綿密な現地調査とブレーンストーミングを何回も繰り返します。こうした準備に2年近い月日をかけ、ようやくビジネスモデルが固まります。
そして、社内の合意を取り、必要な人材を世界中からスカウティングし、資金を集め、ステークホルダー(利害関係者)との交渉を行い、到達目標、期間、予算などの制約条件が決まり、ようやくスタートとなります。
 
プロジェクトには5つの段階があります。①開始Initiating、②企画Planning、③実行Executing、④観察管理Monitoring and Controlling、⑤完了 Closingの5つです。
さて、PMが最も重要だと考えているのは、この5つの段階のうちどれだと思いますか?


未知の開発途上国でのプロジェクトでは、想定外のことが起こるのが当たり前。もちろん調査の段階でいろいろなリスクを想定しているのですが、地震、火山の噴火、大雨洪水、紛争、テロ、感染など予測不能な想定外の事態が起こることがしばしばあります。思い出深いのは、ラグビー仲間だった他商社の知人が、イラクでイスラム過激派に襲撃され命を落とした事件です。ショックからしばらくお酒を飲まないと眠れない日々が続きました。


PMは、こうした想定外の事態が起こることを想定しておかなければなりません。想定外のことが起こった時に冷静かつ大胆な決断を下すための心の準備、つまり「覚悟」をしておくことが大切なのです。


さて、前述の質問の答えなのですが、答えは⑤の完了 Closingです。PMは、プロジェクトがスタートすると、頭の片隅でいつも「どう撤退するか」を考えています。もちろん、成功して完了することがベストなのですが、いつ何時どのような事態になるかわかりませんから、その時に、損害を最小限に抑え、後々ステークホルダーともめ事が起きないようにするため、どのようにプロジェクトを完了させるかを考えているわけです。一つのプロジェクトで、「撤退するか否か」という決断を迫られることが、最低でも2回から3回はあります。

 
今も時々思い出すことの一つに、ほんの小さなトラブルがプロジェクト撤退という危機的状態を招いたというケースがあります。2014年から2018年の5年間、ミャンマーで二つのプロジェクトをスタートさせました。そのうちの一つが、2017年からの北部の高原地帯でのプロジェクトでした。日本品種の短粒米を生産し、アメリカに輸出するというプロジェクトでした。
いよいよ、田植えを開始と言う時に日本から輸入した最新鋭の田植え機が故障したのです。広大な面積の水田での田植えを、3週間の間に終わらせなければ雨季が来てしまうという状況です。当時のミャンマーでは、田植え機は、この1台しかなく、しかも日本のように修理にかけつけてくれる整備工場やメーカーの駐在員もいません。とても人手での田植えでは間に合いません。
故障個所を調べたところ、空冷器の小さなバネ4本がサビてしまい動かなくなってしまっていることがわかりました。雨季の間倉庫に保管していたためです。日本ではあり得ないのですが。
日本のメーカーに問い合わせると到着に1か月かかるとのこと。しかも小さなバネのために多くの運送費用をかけるわけにもいかないですよね。長さ2cmほどのバネ4本が入手できないために数百億円のプロジェクトが終わってしまう事態。思わず苦笑してしまいました。とにかく頭をフル回転させ、あらゆる方法を考え、トライしましたが解決策が見つからないまま2日が過ぎました。
 
3日目の朝、仲良くなっていた村の鍛冶屋さんのタージン君を訪ねて、田植え機を見せました。彼は英語が話せないので、ミャンマー語と英語と手振りで故障を説明。すると彼が、家の中に入り、しばらくするとニコニコ笑いながら小さなバネを私に手渡したのです。
なんと空冷器にぴったりはまりました。残り3つのバネも付け替え、修理をして、恐る恐るエンジンをかけると見事始動!直ったのです。
このバネは、何のバネだと聴いたら、彼はニコニコしながら4本のボールペンを差し出しました。何と日本製のボールペンの中に入っているバネだったのです。「日本製のボールペンは優れモノだよ。」と彼は笑いました。


小さなボールペンのバネとミャンマーの田舎の若者の機転が巨大プロジェクトの危機を救ってくれたのです。すぐに日本の本社にメールを送信しました。「ミャンマーの若者の機転と日本製のボールペンが日本・ミャンマー共同プロジェクトを救ってくれた。」と。すぐに返信が来ました。「!!??」と。


観光学科では、2年生、3年生でプロジェクト・マネジメント演習が必修科目となっています。学んだ知識やスキルをフルに活用して、企業や地域から与えられた課題を解決するのですが、その過程で学んだ知識やスキルを、実践的な力、ほんものの力として身につけてもらえればと考えています。みなさんも世界で活躍するPMをめざしてみませんか?
 
ミャンマーは、先月、軍事ク―デターが起こり、軍政が復活、軍が反対運動を行う民衆を弾圧しています。プロジェクトの現地スタッフたちとも連絡が取れない状況です。彼らの無事を祈るばかりです。


(国際コミュニケーション学部 観光学科  吉田 誠)

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