看護学科コラム

202108.30
看護学科コラム

【看護学科】地球の歩き方 わずかな希と逃避願望

~欧州連合(EU)がまだ形成されていない頃の話~私はLondonで看護師・上級コースの学生をしていました。私は、UK(United Kingdom)から外に出たことはなく、それはEuropeに出る怖さがあったからでした。

Parisは怖いよ、道を歩いていると突如、建物や車に引き込まれ連れ去られてしまうから、道路を歩く時は気をつけるように、と言われていたので怖くてUKから外に出る気持ちにはなれなかったのです。日本からLondonに来た多くの方は1年以内に帰国していましたが、ある方が帰国前に旅行書「地球の歩き方」を置いていきました。それは、旅行の体験記が載った、まさに地球を自分の足で歩いてきた方達の記録でした。私にも行けるかもしれないと、勇気を持たせてくれた本でした。


その本の中に、南仏Antibes アンティーブという街があり、その近くに小さなお城があり、そこから見た街並が素晴らしいという記事がありました。私は、次の休暇はこの街に行こうと決めました。LondonからParisを素通りし、Antibesまで電車で行き、翌朝その城を探しました。駅から遠くないはずですが、辺りには城らしきものはなく、駅員に聞くと、近くの坂を登るといいよと。急な坂で、ひたすら登ると汗だくに、頂上近くに喫茶らしき山小屋があり、コカ・コーラくださいと言ったら、そんなのよりこれがいいよと出してくれたのは、レモン水でした。氷とレモンが入った、爽やかな自然の味覚でした。一息ついて頂上へ、小さなお城から見た街並みには南仏の穏やかさがありました。


さて、Londonに戻り勉強が続くと辛くなり、これが終わったらまたあのお城に行こうと思い、頑張る気力を保っていました。でも、その後、訪れたことはないのです。あれは辛いことがあるとわずかな希を持つ、つまり逃避願望だったのだろうと思っています。でも、夏になると自作したレモン水はいつも飲んでいます。


「地球の歩き方」は未知な土地をも身近に感じさせ、さらに人生を支える役割を果たしていました。

保健医療学部 看護学科 中島 登美子

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