グローバルコミュニケーション学科コラム

202109.29
グローバルコミュニケーション学科コラム

【Gコミ学科】歴史の光と影:アメリカ合衆国の絵画(1)『ポカホンタスの洗礼』(1840)

アメリカ合衆国というと科学や技術の文明国というイメージが強く、絵画などの芸術にはみるべきものが無いと思われがちです。なるほど、フランス印象派の絵画のように陽の光や影を微細に描いた作品は合衆国には少ないかもしれません。

けれども、多民族国家ならではの絵画の存在を指摘することは可能です。例えば、国民統合の絆とも呼ぶべき歴史的記憶を描いた「ナショナルペインティグ」と呼ばれる何枚かの画が、連邦議事堂に飾られています。その一枚を紹介しましょう。

Pocahontas.jpg

『ポカホンタスの洗礼』(1840)[連邦議会所蔵]

John Gadsby Chapman (photograph courtesy Architect of the Capitol) - Architect of the Capitol, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1381128による

17世紀北米大陸に英国が開いたヴァージニア植民地で、先住インディアンの娘ポカホンタスが英国人入植者ジョン・ロルフと結婚をした話は史実をしてひろく知られます。ウォルト・ディズニーのアニメ映画『ポカホンタス』で、その恋の物語を知った人も多いことでしょう。


ここに紹介したのは、そのポカホンタスが結婚に先立ち、キリスト教に改宗する姿を描いた画です。ただし、「文明(英国)にひざまずく野蛮(先住インディアン)」という副題が潜むこの画は、本当の意味での多民族国家の理想を表す画とはもはや言えません。ヨーロッパの文明を先住インディアンが率先して受容したという話は、ヨーロッパ人が自分たちの北米大陸征服を美談として言い伝えるために創った神話であって、必ずしも史実ではないからです。画面の右下にはポカホンタスの部族の仲間も描かれています。ですが、ここに描かれた光景はあくまで想像の産物です。


アメリカ合衆国の公共の建物に飾られる絵画をみると、この国が自国の発展をどのような価値に基づいて推し進めてきたのか、その光と影を読み取ることが出来ます。ヨーロッパの印象派の画を鑑賞する時とは別の「光と影」を私たちはそこにみることができるのです。アメリカ地域研究では、そうした文明の「光と影」を注意深く学びます。


国際コミュニケーション学部 英語コミュニケーション学科 教授 遠藤 泰生

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