グローバルコミュニケーション学科コラム

202110.29
グローバルコミュニケーション学科コラム

【Gコミ学科】移民の国の移民排斥:アメリカの絵画(3)『布教より自由!』

The_Propagation_Society._More_free_than_welcome_LCCN2003656589.jpg

パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/wiki/File:The_Propagation_Society._More_free_than_welcome_LCCN2003656589.jpg による


アメリカ合衆国が移民の国であることは誰もが知っています。先住民インディアンを除けば、アメリカ合衆国に住む全ての人間はアメリカ以外の土地から来た人かその子孫なのです。しかし意外なことにその移民の国は、遅れてやってきた移民を排斥することにおいても長い歴史を持ちます。いったいどういうことなのでしょう。


今回とりあげる「絵画」は、立派な絵画の伝統からはちょっとはずれた政治風刺画漫画の一枚です。アメリカ合衆国における移民排斥の最初の大きな波は19世紀の前半、1840年代に起きました。歴史は皮肉です。今までにない大規模な移民の流入がこの移民排斥の波を引きおこしたのです。この時代、ヨーロッパではジャガイモの病気が大流行しました。その結果、ジャガイモ飢饉と呼ばれる食糧危機が各国を襲い、食うに困った多くの人が移民としてアメリカ合衆国に流れ込みました。とくにアイルランドからの移民は、北東部のボストンやニューヨーク、フィラデルフィアに集住し、以前からそこに住んでいた人々との間で衝突を引きおこしました。昼間からお酒を飲み、カトリックを信仰するアイルランドからの移民を、プロテスタントを信仰するアメリカ国民の多くが嫌ったのです。


「画」を見てみましょう。アイルランド移民が尊敬するカトリック教会の指導者はローマ教皇です。そのローマ教皇がアメリカ大陸に上陸しようとしているのを、ジョナサンと呼ばれる男に擬人化された合衆国が拒んでいる姿が描かれています。アメリカ合衆国にカトリックの教えを広めようと、剣を振りかざし船から降り立とうとする教皇に向かって、「この国はあんたを歓迎しないよ、布教より自由が大切なんだ」とジョナサンはつぶやきます。その姿はちょっとユーモラスであり、差別を連想させるという意味では、少し恐ろしくもあります。アメリカ地域研究では、こうした漫画や本の挿絵まで使って、アメリカ合衆国の政治や文化を学びます。

国際コミュニケーション学部 英語コミュニケーション学科 教授 遠藤 泰生

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