看護学科コラム

202111.10
看護学科コラム

【看護学科】看護と難民支援(海外編)

難民の保護を担う国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR:United Nations High Commissioner for Refugees)によれば、2020年末時点での紛争や迫害により故郷を追われた人の数は約8,240万人で、年々増加傾向にあります。同国内で移動をせざるを得なかった国内避難民は約58%を占めますが、国境を越えて避難した「難民」受け入れ国の86%が開発途上国です。貧困な国において多くの難民を保護することは重い負担であり、とても一か国で対応できることではありません。

難民のみならず当事国の人々の日々の生活の安全を確保するためには、外部からの支援が必要不可欠です。国連機関はもとより多国籍の様々な人材が集結しますが、特に医療従事者の活躍は多くの期待が寄せられます。


難民の人たちは、生活維持の危うさのみならず生命の危険を感じて恐怖のうちに住み慣れた土地から"移動を強いられる"のです。

避難の途中で生命を落とすこともあり、避難した場所が劣悪のためそこで死に至ることもあります。定住した先に必ずしも幸せが待っているとは言えません。心身ともに痛みや苦しみを抱えて生きていく人々にこそ看護の力が発揮できるといえましょう。

生命をつなぎ止め、飢えや寒さや不潔さを除いて、病いを防ぎ健康に留意できるようにし、自己尊厳を取り戻すための関わりをするのです。


難民の苦しみはどのようなもので、具体的に看護が発揮できる機能とはどのようなことでしょうか。

彼らは十分な食料を入手できず、栄養状態が悪く感染症にもかかり易くなります。もともとの持病も持っている場合もあるし、紛争や暴力により大怪我を負うことや、心に大きな傷を持ち続けることもあります。いざ母国を脱出すれば、長い道のりを歩き続けたり、海を渡る際には船が転覆したりして、命がけです。目的地にたどり着いたとしても疲弊しきっている状態です。


第8代国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子氏は、人間の安全保障委員会の議長であり、今でも世界から尊敬を集めている日本人女性です。「人間の安全保障」は、人間一人ひとりに着目し、生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り、それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために、保護と能力強化を通じて持続可能な個人の自立と社会づくりを促すという考え方で、「Freedom from want、Freedom from fear(欠乏からの自由、恐怖からの自由)」を目指すものです。

この理念と、安全安楽を提供しつつ、苦痛を緩和・除去し、健康の維持増進に関わり、日常生活支援をして対象のニーズを充足させる「看護」の理念とは一致していると思い続けてきました。

持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)では、"誰一人取り残さない世界の実現"を叶えようとしています。過酷な生活を強いられる難民の人たちの中に入っていき、「人間の安全保障」の理念を具現化する看護を実践していきたいと思います。

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保健医療学部 看護学科 教授 伊藤 尚子

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