看護学科コラム

202201.24
看護学科コラム

【看護学科】災害看護における「傾聴」

災害によって、被災した方々は多くのものを失い生活が一変します。心身ともに疲弊し、それまでの穏やか日々を取り戻すことは容易ではなく、様々な支援が必要となります。精神面においては、ストレスをはじめ喪失感や悲嘆・絶望・怒りなど、さまざまな心の辛さを経験します。

東京都福祉保健局が発行している「災害時の『こころのケア』の手引き」では、下図のように"時間の経過と被災者のこころの動き"を紹介していますが、被災者によって心が受けるダメージの深さや回復までの時間は異なり一様ではありません。

傾聴.png

こころのケアが必要な被災者に対し、支援者には「傾聴」という姿勢が求められ、傾聴ボランティアの方々が被災地で活躍されることが多くなりました。

では、看護職が行う「傾聴」には何が期待されているのでしょう。「被災者に寄り添う」「被災者と向き合う」という言葉とも関連しているようです。看護の活動では、アセスメント→診断→計画立案→介入→評価という過程があります。「傾聴」という行動は、情報収集です。まずは、被災者から「話を聴く」ということを最終目的にしないことが大事です。なぜならば、看護職は介入の結果を評価しなければならないからです。「傾聴」によって情報を分析し、その被災者にとって何がニーズなのか見極める必要があります。ニーズが満たされた状態を目標とし、そのための介入が何かを考えます。

看護職が「傾聴した」と満足してしまっても、被災者の方は『聞きっぱなしで、何もしてくれない。かえって傷ついた。失望した。』という気持ちになることもあります。解決になるような案を提供してみたり、解決できる方法を探して改めて来訪すると伝えれば、そのような気持ちも起こらないかもしれません。ただし、不確実なことや非現実的なことを伝えてはなりません。さらに、そうした解決案を望むかどうかを被災者の方に確認する必要があります。可能な限り「自由意思決定」を尊重することが、自己尊厳の回復にもつながるのです。もちろん、「お話を聴いてもらうだけでよい」という方もいますので、その場合には「傾聴」でとどめるという判断をし、サポートが必要な時にはいつでもお知らせいただくようにとお伝えをします。

保健医療学部看護学科 教授 伊藤 尚子

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