心理学科ニュース

202207.05
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【心理学部】立てこもり事件の再犯事件でテレビ局の取材を受けました ―心理学部犯罪心理学専攻の教授がzoomで回答―

6月21日、埼玉県川越市のインターネットカフェで起きた立てこもり事件で、逮捕された容疑者(42歳)は2012年にも同種の事件を起こし、9年間の懲役刑を経て、今年4月に出所したばかりであった。そこで、前回の発生現場の地元である東海テレビから取材の申込みがあり、犯罪心理学専攻の中山教授が、zoomインタビューで回答した。

コメントの内容は以下のとおり。

まず、立てこもり事件の再犯は珍しい。人質を取っての立てこもり事件の場合、容疑者の要求がかなえられたとしても、ほとんどの場合すぐに逮捕され、リスクにみあうような結果が得られることはまずない。前回は、信用金庫の職員ら数人を人質に立てこもり、当時の政権の退陣を要求するというものであった。しかしながら、首相と信用金庫には何の関係もないし、目標達成の見込みはまるでない。結果的に長期の懲役刑を課せられ、働き盛りの時期を刑務所で過ごすことになる。そして、出所後2ヶ月ほどで職を失い、逮捕時の所持金は十数円であったという。今回はネットカフェでアルバイトの女性店員(22)を人質にとって立てこもり、けがを負わせたというものであったが、明確な要求はしていない。計画性は全く感じられないし、自暴自棄になって刹那的に思いついた行為ではないだろうか。

それにしても、なぜ、たてこもり事件を二度も起こしたのか。

過去の立てこもり事件を見てみると、容疑者は未熟で、成功あるいは達成経験を持たないことが多い。立てこもりをしたとしても成功の見込みは最初からなく、警察側のわずかな譲歩で簡単に解決することが多いのは、彼らのパーソナリティの未成熟さに起因する。言い換えれば、彼らは失敗することに慣れており、多くを望まず、わずかな食事や飲み物の差し入れでも有効な懐柔策となる場合がある。

前回の要求のように、政治や思想的動機を掲げるケースもあるが、それは単にマスコミの注目を浴びたいということからくるのであって、それほどの高い見識を持つわけでもない。いうなれば、自己顕示欲が強く、目立ちたがり屋で、世の中をあっと驚かせたいというのが動機である。彼らにはそもそも高い能力が備わってはいないので、他の人がやらないような悪いことをして目立つほかはない。ネットカフェで人質をとっての立てこもりなら、簡単にできるし、長時間テレビで生中継されることもあり、彼らにとって格好の"晴れ舞台"となる。彼自身は1979年に大阪で発生した三菱銀行立てこもり事件で、行員に性的行為を強要し、4人を殺害後、最後は警察によって射殺された梅川昭美に憧れていたそうである。しかし、今回の容疑者には、梅川ほどの大胆な行動は取れないであろう。

重要なことは、服役中の矯正教育である。法務省はこれまでの懲役刑を廃止し「拘禁刑」を創設した。単に懲らしめるだけでは再犯を防ぐことはできないので、犯罪性の「治療」に重点をおく方向に転換したのであろう。この制度は、薬物・性犯罪、あるいはギャンブル依存が元で罪を犯す人々の再犯防止には特に有効ではないかと期待される。

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