観光学科コラム

202310.08
観光学科コラム

【観光学科】観光の仕事は「幸せプロデュース」フランスのガストロノミー・ウォーキングが教えてくれた「食と幸せの関係」

みなさん、こんにちは!観光学科教員の高根沢です。

いきなりですが「食べること」は好きですか?

もちろん、嫌い、という人はほとんどいないと思います。

美味しいものを食べたり飲んだりすれば、みんな幸せな気分になれますよね。

観光の分野でも、この『食』というのは欠かすことができない要素です。

それは、命を維持するために不可欠ということではありません。

旅先での食事はその場所と深く結びついた大切な想い出の一コマであり「そこにしかない料理や飲み物」が旅行の目的になってしまうほど食が私たちの心を惹きつけるから、ということです。

では、なぜ『食』はこんなにも私たちの心を惹きつけるのでしょうか。

今回は、私がフランスでの調査から感じたことを紹介したいと思います。

私は最近、食を活かした観光イベントとして「ガストロノミー・ウォーキング」というイベントについて研究をしており、昨年と今年の夏に、フランスのアルザス地方で調査をしてきました。

この地方は、主に良質の白ワインを生産する地域として有名で、なだらかな丘陵地帯にブドウ畑が広がる光景はとても美しく、点在する小さな村や町とともに「アルザス・ワイン街道」と呼ばれる観光地となっています。

その道筋にあるバール村が、今回の調査対象であるガストロノミー・ウォーキングの舞台です。

バール村のガストロノミー・ウォーキングは、村からブドウ畑の丘陵を登り、森を抜けてまた村に戻ってくる約8キロのルートで、その途中に6か所のフード・ポイントが置かれています。

それぞれのポイントでは、プレッツェル(岩塩付きのパン)に始まり、野菜スープ・前菜・メイン・チーズ・デザートとコース料理の順に食事が提供され、またそれに合うワインとして地元ワイナリーのワインを飲むことができます。

つまり、きれいな景色の中をハイキングしながら、野外でフルコースを楽しむという、ちょっと変わったイベントです。

食1.jpgブドウ畑の丘陵を登って最初のフード・ポイントへ向かう
食2.jpgガストロノミー・ウォーキングの様子(森の中にあるフード・ポイント)
食3.jpg原っぱにあるフード・ポイントで一休み

調査では、このイベントの運営や地域での経済効果・参加者の意識調査などを行いましたが、特に印象に残ったのが、参加者の「Well-being(ウェルビーイング/幸福な状態)」に対する認識です。

話を聞いた人の多くが、美しい自然のなかで美味しい食事とワインを分かち合い、家族や友人と絆を深めることは、自分の考えるWell-beingの一部である、と語っていました。

さらに幾人かは、特に《 convivialité 》(コンヴィヴィアリテ)という言葉を強調していました。これは「共に食を楽しみ、喜びを共有する」というような意味があります。

私はこのフランスでの調査を通じて、食に私たちが惹きつけられる理由の一つがここにある、と再認識しました。

特別で高級な料理やその土地ならではの料理は、一人で食べてももちろん美味しく満足できるでしょう。しかし、その体験を一緒に分かち合う人がいれば、美味しさも喜びもさらに高まるのではないでしょうか。

また、何気ない普段の食事やコンビニのパンであっても、友人と一緒であれば楽しく充実したひと時を過ごすことができます。

冒頭に書いたように、観光は食と不可分であり、たくさんの人々が食を求めて観光に出発し、仲間との絆を深め、また新しい人々との出会いと交流を楽しんでいます。

そう考えると、観光という仕事は「人々に『食』を分かち合う機会を提供することで、豊かな人間関係と幸せな人生をもたらす仕事」といっても良いのではないでしょうか。

「人はパンのみにて生きるにあらず」

みなさんも「自分は食べることが好き」だけでなく、家族・友人と『食』を分かち合う喜びをあらためて見つめ直してみましょう。

食4.jpgブドウ畑の中を歩きながら、友人と語り合うひと時
【准教授 髙根沢 均】

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE
  • Twitter