心理学科コラム

202312.20
心理学科コラム

【心理学部】夢分析①「ビッグ・ドリーム」

以前コラムで「夢分析の不思議な世界」についてご紹介しました。夢占いではありませんよ。れっきとした学問であり、無意識を発見したフロイトは「夢判断」を著していますし、弟子のユングも夢の持つ機能を重視し、人類共通の「集合的無意識」の観点から夢分析を用いた治療を発展させています。

夢は無意識からのメッセージです。無意識は意識よりもずっと賢く、またその人の絶対的な味方です。夢は、その人の盲点となっていることを知らせたり、気になっていることに答えてくれたり、厳しい状況をやり過ごせるように、現実を補う体験をさせてくれたり、将来の危険を警告してくれたりします。この貴重なメッセージ、無意識の叡智を受け取らないのはもったいないですね。

私は5年ほど、ユング派セラピストの夢分析の会に参加していました。参加者は自分の夢を記録し持ち寄ります。順番に自分の夢を読み、それをみなで分析します。夢は多層的で、1つの夢にいくつもの解釈が可能ですが、たいてい夢見手が「それだ!」とピンとくるものがあるものです。それをさまざまな視点からさぐりあてていきます。夢にはいくつかの典型夢といわれるものがあり、それについて解説している本もあります。しかしそれはあくまでも参考であって、同じアイテムが夢見手にとって全く異なる意味をもつ場合があります。従ってその人の背景や現状を踏まえて解釈することが必要で、こうした個別の、夢分析の会が有用なわけです。

夢分析の会の経験から、今日は、ビッグ・ドリームと呼ばれる、鮮烈な印象を与える夢をご紹介しましょう。そうそう見るものではありません。会で報告された夢は以下のようでした。中年女性の夢です。

私は一人で夜汽車に乗っており、誰もいない車両の左側の2人掛けの席の窓側に座り、窓から外の景色をみています。気持ちのよい車内で、静かな、穏やかな宵でした。夜汽車は少し左にカーブを描いた線路の上を走っていました。ふと夜空を見上げると、そこには、天空いっぱいに翼を広げた鳳凰が、無数の星々でかたどられていて、息をのみました。淡いピンクや水色、藤色、黄色、白といった星々で描かれたその鳳凰はたとえようのない美しさで「ああ、私はすべてを失ったから、これを見ることができるんだなあ」と言いました。

この女性は、目覚めた時、こみあげる言いようのない感動、喜びと不安があり、数日ぼうっとしたそうです。現実では、仕事の重圧や借金、家族関係等、かなり精神的に辛い状況にありました。夜、大空、列車の旅、といった要素は皆、内界への方向性、人生の展望といったものを示し、鳳凰は死と再生、神性を、また左上という方向は精神性、内向性、神性を表し、線路や星には運命といった象徴的意味があります。曼荼羅(まんだら)などの夢と同様、危機的な状況にある夢見手に、無意識が心的エネルギーを送ってきた夢と思われました。

過去にカウンセリングをしていた患者さんから、統合失調症を発症した時ものすごいインパクトのある曼荼羅(まんだら)の夢をみた、と聞いたことがあります。ああ、この人もかなり追い詰められているのかもしれない、と思いました。「すべてを失ったから云々」というところはわからず「何だろうね?」ということで会は終わりました。このように、その場ですべてが明らかになるわけではありません。後年、ああ、こういうことを指していたのかな、とわかることもあります。この女性は何年もしてから一家がばらばらになり、宗教の道に入ったと聞きました。この夢には予知的な意味合いもあったのか、この夢をきっかけに人生のルートが変わったのか、いずれにしても、ビッグ・ドリームであったと思われます。

いかがでしょうか。みなさんも息をのむような鮮烈な夢をみることがあるかもしれませんね。そんな時はその夢も、自分も大切に扱ってあげましょう。大学に入って心理学をより深く学び、夢を役立てられるようになるといいですね。

【教授 道免 逸子】

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