心理学科コラム

202006.10
心理学科コラム

【心理学部】『法務教官と法務技官の違いとは』

このコラムを開いた方の中には、法務教官や法務技官という言葉を聞いたことのある人が多いのかもしれません。しかし、社会での認知度は同じ公務員である警察官や裁判官などと比べると低いように思います。

例えば、警察官は、街に出ればパトロールしている姿を見ることがありますし、裁判官については、一般人でも裁判を傍聴することが可能なので、その仕事ぶりを見ることができます。では、法務教官と法務技官については、どうなのでしょうか。

多くの法務教官らは、塀やフェンスなどによって囲まれた少年院や刑務所といった矯正施設の中で、非行少年や犯罪者と日々向き合っているので、(近年は一般の方から寄せられた非行関連の相談に乗ることも多くなってきていますが)その働きぶりを見ることはなかなかできません。

前置きが長くなりましたが、このような理由から、法務教官や法務技官はあまり知られることがなく、誤解も受けやすい職業だと思います。それぞれの仕事内容について、簡単に紹介します。

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まず、法務教官については、心理学、社会学、教育学、福祉に関する専門知識や幅広い視野を持ち、非行少年が再非行に及ばないように教育を行ったり、受刑者の問題性に応じた指導を行ったりする専門職です。

例えば、家族との関係について考えてもらう授業を少年たちに対して行ったり、少年院や刑務所の中で行われる運動会(もちろん主役は少年や受刑者ら)などの行事を企画したり、性犯罪に及んだ受刑者を集めてグループワークを行ったりしています。
集団を扱う力や臨機応変さ、非行少年等の心を動かすような人間性の豊かさなどが求められます。

一方、法務技官とは、法務省で働く専門職の総称で、特定の分野に関する専門知識・技能を有するもの、医師や看護師などの専門的資格を有するものなどが含まれます。その中でも心理を専門とする法務技官は、心理学の専門的な知識や技能を生かして、非行少年や犯罪者がなぜ犯罪行為に及んだのか分析し、彼らに必要な教育や指導の方針を考えたり、受刑者や非行少年が施設内でしっかりと生活していけるようにカウンセリング等を行ったりしています。

具体的には、少年らと面接したり心理検査を行ったりして、彼らの知能や性格、考え方の特徴等について理解し、その結果を文書にまとめるといった仕事をしています。また、受刑生活への不満を訴える受刑者と定期的に面接をして、前向きに受刑生活を送ってもらえるように支援することもあります。
心理学に関する知識や技能だけでなく、探求心や冷静さ、多職種と連携するためのコミュニケーション力などが必要となります。

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イメージしやすいように、非常にざっくりと言ってしまえば、法務教官は学校の先生のような役割を担っており、法務技官はカウンセラーのような役割を担っているというわけです。

どちらも、全国にある少年院や少年鑑別所、刑務所等で勤務している国家公務員です。これら二つの専門職は、その得意とする分野は異なりますが、目の前の非行少年や受刑者がより良い人生を歩んでいけるようにといった同じ目標を持ち、日々、連携しながら職務に当たっています。

少年や受刑者と向き合うのは簡単なことではありません。だからこそ、専門的知識や技能を持つ法務教官や法務技官の役割は大きいと思います。社会の安心や安全を見えないところで支えている法務教官や法務技官の存在の重要性に関心を持ってもらえればと思います。

【心理学部 神垣 一規 講師】

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