心理学科コラム

202105.19
心理学科コラム

【心理学部】『とどまれ自殺!-自殺と法的責任-』

厚生労働省と警察庁の発表によると、令和2年中の自殺者数は21,081人となり、前年と比較して912人(約4.5%)増え、中でも20歳代が404人(19%)、10歳代が118人(17%)増加したそうです。
自殺事案が深刻化するなかで、昨年から今年にかけて2件の自殺事案が大きく報道されました。

1件目は、大阪・梅田にある商業施設の屋上から高校生が飛び降り自殺をし、地上を歩いていた女子大生が巻き添えとなり死亡した事案です。この事案では死亡した高校生が殺人罪の適用も検討されたのち結果的には、重過失致死容疑で書類送検されました。

2件目は、神戸市中央区の元町駅で通過する電車の運転室に男性が飛び込んで死亡し、乗客が巻き添えになって肩の骨を折る重傷を負った事案です。この事案では死亡した男性は、往来危険と傷害容疑で書類送検されました。

この2つの事案に触れたとき、「自殺が犯罪になるの?」、「被害者への賠償は誰がするの?」と思われた方もおられたことでしょう。そこで、自殺の刑事責任と民事責任について考えてみましょう。

1.刑事責任

自殺者の罪

日本では、自殺行為自体を処罰する法律はありません。
しかし、自殺行為によって「人」や「人の財産上の利益」を侵害するなどした場合には、罪を犯す明確な意思(犯意)がなくても、結果の発生が予測できるような場合には犯罪は成立し、また例え、結果の発生が予測できない場合であっても、重過失致死罪のように過失を処罰する規定が法律にあれば処罰されることになります。

このようなことから前述の2つの事例においては、それぞれ犯罪行為として書類送検されたものです。

この他にも例えば、自殺をしようとして刃物を持ちさまよい歩いたような場合には、銃砲刀剣類所持等取締法違反として処罰されることになります。

自殺に関与した者の罪

他人の自殺に関与した場合には罪に問われることとなり、6ヶ月以上7年以下の懲役又は禁錮に処せられることになります(刑法第202条)。自殺関与の形態としては、自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪及び承諾殺人罪に分けられます。

自殺教唆罪 自殺の意思がないか、未だ決断していない者をそそのかして自殺を決意させた場合。
自殺幇助罪 自殺を決意している者の自殺を手伝って自殺をしやすくする場合。例えば、自殺の道具を貸し与えたり、自殺の方法を指示したりする場合等が該当。
嘱託殺人罪 自殺したいから殺してくれと頼まれて殺す場合。
承諾殺人罪 被殺者の死ぬことについての承諾を得て殺す場合。
殺害する者が受け身のときは嘱託殺人であり、能動的なときは承諾殺人となる。

2.民事(賠償)責任

前述の2つの事例のような、ビルから飛び降りたり、電車に飛び込んだ場合には他人に被害を及ぼし、また電車が遅延すれば多くの利用客に影響が出てしまいます。このような場合には、刑事責任を問われるだけでなく民法第709条の不法行為に該当し、その損害を賠償する責任を負うことになります。

民法第709条の不法行為に該当する場合というのは、行為者に故意又は過失がある場合です。

・故意...自分の行いによって他人に損害を与えると知りながらその行いをすること
・過失...損害が発生すると予想しそれを回避することができたのに避けなかったこと

人を死亡させたり、電車を遅延させた場合の損害賠償額は決して少額ではありません。
これらの賠償責任は、自殺行為をした本人が負うものですが、死亡すれば責任を果たすことができませんから、相続で親族などの相続人に引き継がれることになります。

また、賃貸の建物内で自殺をしたような場合には、その後に入居者が現れなかったり、相当に減額しなければ入居してくれない、といった家賃収入の減少が考えられます。これらについては、遺族や連帯保証人に損害賠償請求がされることになり、その額は一律ではありませんが1年分の賃料全額と半額の賃料数年分、そしてリフォーム代金位にはなるようです。

自殺は、遺されたご家族や身近な人に深い心の傷を遺すばかりか多額の賠償責任を負わせ、自殺者自らの罪も問われかねません。

自殺を考える人には辛い事情があり、追い込まれた末の死だと思います。だからこそ家族や友達との絆を大切にし、また周囲の方が変化に気づき寄り添うことが大切なんだと感じます。

かけがえのない命を大切に・・

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