心理学科コラム

202108.04
心理学科コラム

【心理学部】『「恋は盲目」、か?』

「恋は盲目」ということばを聞いたことがありますか。イギリスの劇作家、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」のセリフからと言われていますが、どういう意味でしょう。これは、理性を失い冷静な判断ができなくなることを意味します。

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アロンら(2005)は、恋愛初期の熱愛カップルを対象に、恋人の写真と異性の知り合いの写真を呈示し、ファンクショナルMRIを用いて脳内の活性化領域を比較しています。
その結果、恋人の写真を見たときはVTA※注1(腹側被蓋野(ふくそくひがいや))を中心とする報酬系が活性化しますが、判断の中枢である前頭連合野と社会的認知に関わる側頭極・頭頂側頭接合部は活動が低下することがわかりました。


このような脳内の変化から、「恋は盲目」という言葉が科学的に裏付けられ、正常な判断が鈍ることが示されました。

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また、被験者は熱烈な愛尺度にも回答し、熱烈な愛尺度得点と脳の活性化との関係も検討されました。その結果、熱烈度が高いほど恋人の写真を見た時のドーパミン回路、特に尾状核の活性度が顕著に高まることが明らかにされました。
ドーパミンの分泌が高まると心地よい状態に陥ることから、またその恋人に会いたいと思うわけです。ただし、この実験には続きがあります。熱愛カップルを対象に継続的に実験を続けた結果、早ければ1年半、長くとも3年程度でドーパミンの分泌が止まると報告されています。


この先はあくまで私の見解ですが、恋愛から結婚に移行するならば、愛情の質的転換が必要のように思われますが、如何でしょうか。

まだまだ不明な点の多い脳の状況や変化について脳生理学の分野で徐々に解明されることにより、愛の心理学に関しても明らかになっていくと思われます。

※注1.VTA(腹側被蓋野・ふくそくひがいや)
哺乳類における脳の中脳の一領域で、被蓋の腹側部に位置し、黒質や赤核に近接しています。この部分には、A10細胞集団と呼ばれるドーパミン作動性ニューロンが多く存在し、中脳辺縁投射、中脳皮質投射を形成しています。そして、これらのニューロンの活動は報酬予測に関わっていると考えられています。


【引用文献】
Aron,A., Fisher,H., Mashek,D.J., Strong,G., Li,H. & Brown,L.L. Reward, Motivation, and Emotion Systems Associated With Early-Stage Intense Romantic Love. Journal of Neurophysiology 94(1), 2005, 327-337

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