心理学科コラム

202108.25
心理学科コラム

【心理学部】ヒトはどうやって「自分」を認識するの?

イソップ童話の「犬と骨」をご存じですか?水面に映った自分の像を、他の犬だと思い込み、せっかくくわえていた骨を水中に落してしまうというお話です。
鏡に映った自分の像を自分と認識できるのは、ごく一部の類人猿だけです。板倉(1999)※1 が文献をまとめたところによると、ヒトの赤ちゃんの鏡に対する反応は次のようになります。

最初は、鏡に映った自分の像を「他者」だと見る時期です。生後6カ月から11カ月に最もよくみられる反応で、鏡の像に対して笑いかけたり、手で触れたり、声をかけたりします。そして次第に、鏡の像を注意深く観察したり、鏡の後ろを探ったりする反応が見られるようになります。
次の段階は、鏡を避ける反応が見られる時期で、15か月齢から24か月齢にかけてピークとなります。この時期には、鏡映像に対してしりごみしたり、泣きだしたりします。
その次の段階は21か月齢から24か月齢に始まる、いわゆる「自己認知」の時期です。これまでが、他者に対する社会的な反応であったのに対して、この時期にはそのような社会的反応は消えて、恥ずかしそうに鏡を見たり、当惑したような表情を見せたりおどけた顔をしてみせたり、といったような反応が見られます 。

このような自己の認知には、他者の存在が不可欠であるといわれています。ギャラップ(1970)※2 はチンパンジーに鏡をみせ実験を行いましたが、仲間と隔離されて育てられたチンパンジーは、鏡の像を自分と認識できなかったといいます 。

自己認知は他者の存在があってこそ、初めて成立するのです。

mirror_woman_smile.png


〈引用文献〉
※1 板倉昭二『自己の起源 比較認知科学からのアプローチ』、pp.44~45、金子書房、1999
※2 Gallup,G.G,Jr.,Chimpanzees:Self-recognition,Science,1970

心理学部 心理学科 講師 田中 亜裕子

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