心理学科コラム

202109.16
心理学科コラム

【心理学部】精神科病院での仕事について

心理学部を目指す高校生の皆さんの中には、公認心理師、臨床心理士取得を希望する方もおられることでしょう。
心理職が活躍する医療・福祉・教育・司法・産業分野から、今回は医療分野、特に精神科病院での仕事について紹介したいと思います。

ベッド数が20床以上あるところを病院と呼び、精神科病院には心理士が複数名います。入職5年目の女性心理師Aさんのとある1日をフィクションで描いてみましょう。Aさんが勤務するのは精神科救急も行う地域の拠点病院です。

朝8時45分、心理室内にてカンファレンス。ドクターからの心理検査のオーダーがたくさんボードに貼ってある。人格セット、認知機能セット、知能セット。誰がやりましょうか?と相談して5人で分け合った。ドクターのQ先生が顔を出して「〇〇さんだけど、ちょっと急ぎでお願いできない?」という。急遽、検査の順番を入れ替えて、Bさんがやることになった。各自が今日のカウンセリング予定について報告。面接室が重ならないように確認する。Bさんの患者さん、随分長いことお休みだなあ。Cさんの空き時間に新しい患者さんのインテーク面接(カウンセリングを始める前の聞き取りの面接)が入った。

私は今日、9時から50分間のカウンセリング、10時から11時半まで心理検査、13時からZ病棟で入院患者さんのケースカンファレンス。15時から50分間のカウンセリング。その後、電子カルテの記入と所見書き、という予定。

朝一の患者さんは入院患者さんで、いくつも鍵を開けて閉鎖病棟にお迎えに行くと、患者さんがたくさん集まってくる。「ねえ、これ拾ったんだけど」と見せる人、「こんにちは〜」とにこやかに挨拶してくれる人、「出る、出る」と訴える人。あの人もカウンセリングしたらいいんじゃないかな、と思う人もいるけど仕方がない、オーダーはドクターから出るから私には決められない。

ところでカウンセリングの患者さんが見当たらない。看護師さんに頼んで連れてきてもらった。

患者さんを連れ出し、面接をしてまた病棟へ連れて帰る。すぐに外来の受付に降りて検査に来た患者さんに挨拶し、心理検査室へ連れて行く。認知症の記銘力検査を受けに来た優しそうなおばあちゃんだ。答えられないとだんだん悲しそうになるおばあちゃんを労い励ましながら、4つの検査を終えた。

廊下でR先生とすれ違い、すかさず捕まえて報告する「先生、ちょっとよろしいですか。〇〇さんですが、まだお家で過食しているんですが、どうもご主人が食べ物をわざわざ見えるところに置いているらしいんですよね。外来に付き添って来られたら、それとなく聞いてみていただけますか。」<そうなの?それは問題だなあ。探ってみますね。>これで1つ用事が済んだ。そしてすぐに13時からの資料作り。おにぎりを食べながら。

13時に病棟に行くと、主治医、担当看護師、精神保健福祉士、デイケアスタッフが揃った。リエゾンカンファレンスだ。この男性患者さんは水中毒で、なかなか退院できない。大量に水を飲むと電解質バランスが崩れて命に関わる。便器の水も飲んでしまうので、隔離になっている。これほど悪化する前にカウンセリングをしていた私も呼ばれて、カウンセリング内容を報告した。この男性の水中毒は、それまでのアルコール中毒から置き換わったものと思われた。

午後のカウンセリングは外来の患者さんで、いつものように時間になると面接室の前で待っている。カウンセリングも終わりに近づき、今日も就労支援を受けてきたところだ。2年前とは見違えるようなイキイキした様子で、報われる思いがする。

夕方、心理室で電子カルテに記入し認知検査の所見を書いていた。すると、まだ入って半年ほどのDさんが戻ってきて、深いため息をついている。最近カウンセリングを始めた患者さんは怒りが強く大変な人だ。「〇〇さん、どう?」と聞くと、「それが...」と泣きそうな顔で話し始め、1時間ほど話を聞き、アドバイスをして労った。結局、所見書きは明日に順延。残業をすれば終わるかもしれないが、少し疲労が溜まっているので、Dさんと駅まで帰ることにした。救急車の音がする。「今日の当直は誰?指定医はいる?」と慌ただしい様子の医局を通り、病院を出た。ああ、今日も終わった〜。

心理学部 心理学科 教授 道免 逸子

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