社会学科コラム

202203.01
社会学科コラム

【社会学部】就活は女性らしくスカートで ―『#駄言辞典』にみるジェンダー(1)―

『早く絶版になってほしい#駄言辞典』という本を知っていますか?

「駄言」とは、ステレオタイプ(=固定観念や無意識の思い込み)によって生まれた発言をさす造語です。2020年11月27日、日本経済新聞が紙面で次のような呼びかけをしました。
「心をうつ『名言』があるように、心をくじく『駄言』(だげん)もある。「#駄言辞典」を付けて、駄言にまつわるエピソードをつぶやいてください。まとめたものは、絶版を目指して出版します」。

募集を始めると、たちまち約1200個の投稿が集まりました。とくに目立ったのは、「女性らしくない」「女のくせに」といった発言でした。女性と男性がどのようにあるべきで、どう行動し、どのような外見をすべきかという考え方を、社会学では〈ジェンダー規範〉と呼びます。ちなみに〈ジェンダー〉とは、社会的・文化的につくられた男女の違いを意味します。

2021年6月に公刊された『早く絶版になってほしい#駄言辞典』では、性別・性差に関するものを中心に、400余りの駄言が紹介されています。ここでは、大学生に身近な「就活ファッション」を例にあげましょう。

スーツ姿で並ぶ就活生.jpg

「就活は女性らしくスカートで」は駄言です!

ゼミの学生から「就活でパンツスーツは不利になるんですか」とか「お店でスカートをめられたが‥」といった相談を受けることがあります。結論からいえば、パンツが不利という根拠あるデータは存在しません。その人に似合い、着こなせるのなら、パンツとスカートどちらでもかまわないのです。

1990年代初め、パンツは機能性を重視したアイテムであり、服装に注目が集まる場にはふさわしくないというイメージが一般的でした。社内の女性の服装としても、パンツスタイルを禁止している会社もありました。90年代後半、就活の長期化にともない、スカートスーツにパンツをくわえた3点セット販売が登場しました。2000年代に入ると、パンツスーツは就活ファッションとしての地位を確立し、社会に浸透していきました。最近では、旧来の女性らしさに縛られることなく、自分らしい服装や髪型、メイクを許容する流れが生まれています。

にもかかわらず、パンツかスカートかで悩む学生が少なくないのはなぜでしょうか? それは「女性の正装=スカート」という固定観念が残っているからです。採用試験を受けた会社に、古くさい考え方の面接官がいないとは限りません。就活生が「スカートが無難かな?」と思うのも無理からぬことです。

「駄言」には、私たち一人ひとりが持つ「常識」や「価値観」の間にあるギャップによって生まれるという側面があります。
とくに古い価値観を持って生きている人と新しいリアリティを敏感に感じて生きる人との間に、駄言が生まれやすいと言えます。
「駄言」は多種多様で、家庭、学校、職場など、日常のあらゆるシーンに存在します。駄言を言わない、駄言に惑わされないための方法として、「駄言から学ぶ」というものがあります。自分がその発言をなぜ駄言と感じたかのを考え、その人にその駄言を言わせてしまった背景について考えてみるのです。さらに、自分が同じような駄言を誰かに言っていないか、ふり返ってみることも大切です。

次回以降のコラムにおいても、〈ジェンダー〉をめぐる身のまわりの駄言を紹介します。誰もが性別に縛られず、一人ひとりの「自分らしさ」が尊重される社会をめざして、一緒に考えていきましょう。

【社会学部社会学科 教授 清水 美知子】

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