
社会学科コラム
【社会学部】「社会学部でSDGs」日本は経済成長できる?データサイエンス

20世紀後半以降、AIに代表される高度情報技術が急速に進展しています。その結果、社会の持続的な発展には、データサイエンスの技術が欠かせなくなっています。
社会学部データサイエンス専攻では、社会問題に関して、データサイエンスのスキルを磨き、データサイエンスの知見にもとづいて幅広い分野で活躍する人材の育成を目指しています。
日本のジェンダーギャップ指数(ジェンダー間の不平等を示す指数)は、世界120位という低さです。我が国の平均賃金はこの30年間ほとんど上昇しておらず、OECD加盟35カ国中22位にとどまっています。フリーター、ニートと呼ばれる非正規雇用労働者の問題もあります。
これからの日本には、難題が待ち構えています。
現在の日本社会については、少子高齢化社会・非婚化社会・情報化社会・デジタル社会・ビッグデータ社会と、いろいろな呼び方がありますが、その分析においてデータサイエンスが役に立つのではないかと考えます。社会の現状分析はもちろんのこと、政治決断や政策形成、ビジネスにおける意思決定などに、データやエビデンスにもとづく合理的な分析と包括的な判断が不可欠です。
社会学×データサイエンスで対応していけば、何か解決の糸口が見つかるような気がします。
「ビッグデータ」という言葉がよく使われますが、私がいつも気になっているのは「ビッグデータ」という言葉を明確に定義しないで、心地よい言葉だからと言ってむやみやたらに使っていることです。量的なレベルで、いったいどれぐらいのデータならビッグデータと言えるのでしょうか。
たとえば、距離の話で言えば、地球と月との距離と、地球と太陽との距離が、まったく違いがあることなら理解できます。
そうですね「ビッグデータ」は量的にいくらという明確な定義がありませんが、普通のデータ管理・処理ソフトウエアで扱うことが困難なほど巨大で複雑なデータの集合を表す用語として使われています。また保存メディアの技術的進化により、そのレベルも変化するかもしれませんが、一般的に商業系巨大サーバで扱うペタバイト級レベル(1PB=1015B級)のデータという暗黙の理解があります。特に近年、ビッグデータを資源として活用した新しいビジネスが急激に成長し、経済成長にとっての重要な資源となっています。
たとえば、アメリカのGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)や中国のBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)のようなインターネットの巨大企業が提供しているサービスはその代表例といえます。
社会学における有力な分析手法である社会調査のなかに質問紙調査(量的調査)がありますが、調査の標本数は数十万、数百万、さらには国勢調査のように全国民を対象とした調査があり、これらの調査では多くのデータが収集されます。これもビッグデータということになります。
しかし重要なのは、データの量の大きさに大喜びする前に、そのデータが正確に測定されているのかという問題を理解しておくことです。たとえば、数年前に話題になったのは、最低賃金を決定するためのデータの収集に問題があったことです。コロナ禍で明らかになったのは、東京都と他の都道府県では、「重症患者」の基準が違うことです。
こういうことをきちんとやっていかないと、つまりデータの精度を上げないと、ビッグデータも使いものにならず、「無用の長物」になってしまいます。とはいえ、大量のデータを分析できるようになったのはよいことで、社会経済状況の分析とその解決に役立てていくべきでしょう。
そうですね。インターネットの社会基盤化、特に、近年計算機の処理性能の向上やIoT・ロボティックス・AI技術の発達、そして、クラウド環境の充実などにより、ネットサービスの進化や、FacebookやTwitterなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の流行などにより、ネット上に膨大な量のデータが蓄積されるようになりました。
また、日常生活におけるネットショッピング、POSの販売システム、キャッシュカードなどの取引に蓄積されたデータは、販売管理やマーケティング、新しいサービスの企画などに活用されています。モノづくりの場合、工場や倉庫などの製造・物流の現場にいても、品質管理や生産計画などにも活用されています。
これらのデータは、数字だけではなく、文字テキスト・画像・音声・動画などの非構造化データも含まれており、とても人間には扱いきれないような膨大な量になりますが、コンピューターで分析すればビジネスや人々の生活に役立つような活用も可能となります。データサイエンスは、このようなビッグデータを扱う(分析・処理・可視化など)のに役に立つ学問です。
さまざまな社会問題に関して、データサイエンスのスキルを磨き、社会学の視点とデータサイエンスの知見を同時に有する人を養成したいですね。その結果、幅広い分野で活躍し、日本のみならず世界で、持続可能な社会の実現の一翼を担う人材になってくれることを期待します。
ところで、ジェンダーについて、教えていただけますか。
我が国においては、大問題です。まず、ジェンダー不平等を少しでも解消していくことです。そのために何をしたらよいのかということについて、考えなければなりません。
私の教え子(私が大学院で社会学を教えた女性、大学教授をしておりました)が、先日の衆議院選挙の小選挙区で見事当選しましたが、女性の議員は本当に少なくて、やるべきことはたくさんあります。
女性の活躍といえば、WiDSってご存知でしょうか。WiDSというのは、米国スタンフォード大学が行っているプロジェクトで、Women in Data Scienceの略です。なかなかユニークな発想です。
スタンフォード大学が2015年に開始したWiDSは、データサイエンスの意義、おもしろさなどを広く伝え、この分野に、男女を問わず多くの人を啓発し、その学びの機会を提供または支援することを目的としています。今日、世界60カ国以上で年間200以上の地域イベントが開催され、10万人が参加する活動に成長しているそうです。
日本国内において、横浜市立大学・早稲田大学・広島大学なども参加しており、シンポジウムやアイデア・チャレンジ、ワークショップなどの形式で活動を展開しています。そのなかには当初より、SDGsを意識したプログラム設定を行っている大学もあります。女性の社会進出のあり方に象徴的に示されているジェンダー平等の実現や、新しい働き方などの社会問題を、データをベースにして語りあっているそうです。まさに「データサイエンス×社会学」そのものですね。このWiDSは、本学部の教育にも参考になりそうですね。

SDGsを一緒に考えてみよう
1.データサイエンスについてどのような分野で活用されているか調べてみよう
2.女性の社会進出について、議員数や管理職数を他国と比べてみよう
3.女性のデータサイエンティストの活躍について調べてみよう