心理学科コラム

202301.31
心理学科コラム

【心理学部】狛江市の強盗殺人事件について ―特殊詐欺から、強盗殺人事件への展開―

2023年1月19日午後5時20分ごろ、狛江市の住宅で90歳の女性が両手を結束バンドで縛られ、顔から血を流して死亡しているのが見つかった。その発端は「この家が強盗に狙われているのではないか」という千葉県警からの情報提供を受けた警視庁の警察官が現場を訪れたことであった。となれば、もう1日早く、情報が寄せられていたら事件が未然に防げたかも知れないと思うと、悔やみきれない。

そして、これ以外にも14都府県で発生した事件が関連していることがこれまでに分かっており、その背後に「ルフィ」と称する指示役がいたことを警察はつかんでいる。ルフィのアカウントは複数の者が使っており、彼らはマニラの入国管理施設であるビクタン収容所で身柄拘束中であった。彼らはフィリピンの入管職員に賄賂を手渡して、個室と携帯電話を手に入れ、日本に向けて強盗事件の指示を出していたと推定されている。

ルフィ達は元々フィリピンに滞在し、日本に特殊詐欺の電話をかけていたことで入管施設に収容された連中である。特殊詐欺は、資産家の名簿を手に入れ、被害者の孫や息子を装って電話をかけ金をだまし取る手口で、本学「司法犯罪心理学」の授業では15コマ中の4回にわたって詳しく解説している。今回の事件は、短時間で多額の現金を奪う特殊詐欺から、予め被害者が在宅していることを確認した上での犯行、即ちアポ電強盗へのひとつの発展形であったといえよう。

特殊詐欺の場合、被害者から直接金を受け取る「受け子」は、闇バイトで募集すること多い。今回の事件の実行犯も通常ではありえない、日給数十万という高額の報酬につられて集められた数人組で構成され、互いに面識はなかったということである。彼らは、闇バイトの応募過程で免許証と顔写真を自撮りしたものを提出するように求められる。そして、途中で『やばい』と思っても既に遅く、連絡を絶つと見知らぬ者が自宅に訪ねてくるなどして、自分の家族に危険が及ぶ恐怖心を植え付けられ、逃げ出せない状況になって、やむなく犯行に加担したというケースもあるようだ。ところが、闇バイトで集められた、いわば犯罪慣れしていない寄せ集めの実行集団のためか、例えば、一部の事件では窓ガラスの割方も荒っぽく、被害者に対してもどれほどのことをすれば、相手が死んでしまうかということが分かっていないのではないかと思われるケースがある。強盗殺人となれば、通常は無期懲役か死刑であるが、そうしたことも全く知らないか、気にしていないように見える。今回の一連の事件でも、既に強盗の容疑者として30人以上が逮捕されているが、高額のお金が稼げる闇バイトに安易に応募すれば、その後の人生の長い期間を刑務所で過ごすことになりかねない。

もうひとつの特徴は「テレグラム」というロシア製の通信アプリである。既読がついた時点から「〇秒後」に自動で消去するまでの時間設定ができるので、やりとりした内容が後でたどりにくいため、最近の犯罪ではよく使われる通信手段である。そして彼らは「屋根修理の見積もり」と称して被害者宅を下見に訪れ、具体的に高めの金額を提示し、その反応を見てどれほど金に余裕があるかを探るなど、手口は巧妙である。さらに、犯行当日は宅急便の配達を装ってチャイムを鳴らすので、お年寄りは不用心に玄関を開けてしまうようである。

さて「ルフィ」に関して何名かの候補が実名で既に報道されている。現時点で、警察庁は彼らの身柄引き渡しをフィリピン政府に要求していることから、日本に強制送還されてくるのもそう遠くはないであろう。しかしながら「指示役のルフィ」の背後には、必ず「元締め」がいるはずで、警察がどこまでたどり着けるかが注目されるところである。

Keyword:ルフィ、テレグラム、闇バイト、資産家名簿、アポ電強盗

【教授  中山 誠】

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