心理学科コラム

202307.31
心理学科コラム

【心理学部】犯罪心理学的観点から見た無差別大量殺人犯に関する7つの特徴 ―油を撒いて火を放ち、刃物を振り回した小田急線と京王線事件の判決を顧みて―

走行中の満員電車はきわめて"密"な状態になる。急行あるいは特急電車となれば次の停車駅までの時間も長い。そんな中で、油を撒いて火をつけられた上、刃物を振り回されたら・・・。毎日のように、通勤や通学のために、電車で通っている人にはこの上ない恐怖となるに違いない。2021年8月の小田急線、同年10月の京王線で、このようなやり方の無差別大量殺人を企図する事件が続いた。そして、小田急線事件は懲役19年、京王線事件は23年の有罪判決が、それぞれの被告に言い渡された(東京地裁、裁判員裁判)。

そこで、2つの事件を顧みて無差別大量殺人犯の特徴を明らかにしておこう。

特徴①:恨んでいる相手を狙わず、無関係な人を大量に殺害できる場所の選択が最優先

小田急の場合は容疑者の万引きを発見し、対応した店員と警察官。京王線の場合は元交際相手を恨んでいたと思われるが、何ら手を下していない。一方で、無差別大量殺人事件の場合、「相手は誰でもよかった」という台詞が容疑者の口からよく聞かれる。即ち、彼らは実際に恨みを抱いていた相手の命を直接、狙わないのが大きな特徴である。それよりも、多くの人を一度に殺めることのできる、時間的・空間的な条件を最優先して犯行対象を決定する。冒頭にあげた2つの事件では、容疑者が恨んでいる相手とは、全く無関係の、「混雑した電車」が最適な実行場所として選ばれたといえよう。

特徴②:自己愛性パーソナリティ障害と反社会性パーソナリティ障害の影響

彼らの行動の真の動機は、自己内に鬱積したフラストレーションの解消である。小田急線の容疑者は「幸せな人達や社会への憤懣を晴らすために無差別大量殺人を決意」し、「僕だけ貧乏くじを引いている」と思い込み、「男にちやほやされているタイプに近い」と思った20歳の女性を刃物で刺している。彼らの特徴は、何かに失敗しても自分の努力が不足していた、能力が足りなかったなどとは考えない。そのように考えると自分が傷つくからである。また、勤め先を解雇されても、彼らは自分の落ち度は二の次にして、クビにした雇い主が悪いと一方的に決めつける。換言すれば、彼らはそれほど自分を愛おしく思い、身勝手な考えをする。これこそ自己愛性パーソナリティ障害の特徴である。

そして、その結果、彼らは彼らの怒りを社会的規範に適合しない行動、即ち暴力に訴え、それも多くの人を一度に殺めるという究極の破壊行動に打って出る。これは、自分または他人の安全を考えない無謀さ、一貫した無責任さ、良心の呵責の欠如という点で反社会性パーソナリティ障害に当てはまる。

特徴③:大量に人を殺すことの究極の目的は自己顕示欲

無差別大量殺人という、あまりにも悲惨で、恐ろしいことができるのだということを世の中に示すことにより、自分に注目を集めたいという自己顕示欲が彼らの心の底にある。社会的に成功して英雄となり、人々から羨望あるいは尊敬の目で見られるような存在に、彼らはなりえない。なので、憎まれ役として恐れられることで目立つほかはない。ハロウインの夜であったとはいえ、京王線の事件で被疑者が扮したのは、"悪人"のジョーカーであった。被害者を刃物で刺した後、車内で悠然と煙草を吸う姿が何度もテレビで放映されたが、あの場面こそ彼らが追い求めた自己顕示欲を満たす

特徴④:コピーキャット現象(ひとつの事件の発生は次の模倣犯を誘発する)

この種の事件の前には、類似事件が発生している。彼らは無差別大量殺人が発生し、マスコミが大々的にとりあげ、世の中の大きな反響を呼ぶと、こうすれば自分を目立たせることができるのだということを学習する。小田急線の事件は2015年の新幹線内での殺人、京王線の事件は他ならぬ小田急線事件を模倣したと容疑者自身が述べている。油を撒いての放火といえば、2019年の京アニ事件(36人死亡)が前例としてあり、小田急・京王線の後には大阪駅前クリニック放火事件(死者26名)が発生している(2021年末)。

特徴⑤ 自殺願望があるものの一人で死ぬ勇気はない(よって、拡大自殺ではない)

小田急・京王線ともことを起こす前に自殺を試みているが、実際にはひとりで死にきれなかった。そこで、多くの人を殺して死刑になりたかったと言う。そのことから、彼らの行動を「拡大自殺」と捉える研究者もいるが、自分が死ぬことが彼らの真の目的ではない。「死にたければ(多くの人を道連れにして大量に殺すことなく)、一人で死ね」という、"識者"の言葉は彼らには全く意味がない。彼らにはそもそも自殺する勇気はない。

特徴⑥:精神的な孤立と経済的困窮で最後の一線を越える

彼らは日ごろから良好な人間関係を保つことが苦手である。自己愛性および反社会性パーソナリティ障害のために、かつて仲の良かった友達や交際相手は次第に離れていく。即ち、事件の直前には彼らに言葉をかける者もなく、小田急線の容疑者は「男性の友人からは見下され、女性からは軽くあしらわれていた」と述べ、精神的に孤立した状態にあった。そして、二人の容疑者とも、定職に就かず、アルバイトを転々としている。やがて、貯金も尽き、借金もできず、経済的に破綻して、「もう、これ以上生きていけない」と思うと、最後の一線を越える。小田急線事件は生活保護を受けながら、万引きを繰り返し。京王線の容疑者は逮捕時の所持金が2千円未満で、ともに日常生活に困窮していた。

特徴⑦:自暴自棄で逃走のプランをもたない

最後は、もうどうなってもかまわないと自暴自棄になる。そこで、他の犯罪とは異なり、目標達成後に生き延びようとして逃走する意思がなく、両名とも直後に逮捕される。

このように考えると、この種の事件の再発防止には、親身になって彼らの話を聞き、共感してくれるような相談相手が身近にいることが重要と考えられる。精神科医や公認心理師のサポートが容易に受けられるセーフティネットの仕組みが有効となるであろう。法務省の調査では、粗暴犯の前歴があり、自殺願望がある場合には、大量殺人を起こす可能性ありとして、特に注意して支えることが必要と指摘されている。どんな犯罪でも同じであるが、居場所と役割を与え、生きがいとやりがいを感じるような仕事、そして収入があれば犯行に至らないはずである。

【教授 中山 誠】

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE
  • Twitter