心理学科コラム

202308.07
心理学科コラム

【心理学部】犯罪心理学を専攻すると卒業後、どんな仕事につけるのか?-進路及び就職先について-

大学で犯罪心理学を専攻すると、卒業後にどんな進路があるだろうか?

大きく分けて2つある。ひとつは、犯人逮捕に向けた犯罪捜査に心理学を役立てる仕事、もう一つは犯罪者や非行少年の立ち直りを心理学的に支援する仕事である。

ひとつ目の代表格は警察官。殺人事件が発生したら、刑事は人からの聞き込み捜査に加え物的証拠を収集し、容疑者が捜査線上に浮上してくれば取調べに入る。とはいえ、殺人を自供すれば重罪になることは明白なので、真犯人といえどもそんなに簡単に認めるはずはない。一方、無実の人間を誤って逮捕すれば、えん罪事件に発展する可能性がある。そこで本学の「捜査心理学」では、真犯人のみが知る秘密の暴露を引き出す方法や、目撃者の記憶を正確に再生させる認知面接の技法について詳細に教えられている。さらに「犯罪心理学特殊講義」では、学生が過去の事件を自由に選んで概要を発表し、捜査上の問題点・再発防止に向けた改善点についてグループでの全体討議が展開される。その他、警察官となるために基礎的な法律の知識は「法律学概論」「犯罪関連法論」で得られるし、性犯罪の女性被害者に対して行うカウンセリングの技術を臨床心理学系の科目で学ぶことができる。

さて、警察には科学捜査研究所があり、心理部門として「ポリグラフ検査」と「プロファイリング」を扱う研究職がある。本学の犯罪心理学専攻には、科捜研で27年間勤務した経験を有する教員が配置されている(【心理学部】『犯罪捜査における"ウソ発見器"とは?』|関西国際大学 (kuins.ac.jp)を参照)。本学の心理学実験室には、科捜研と同等のポリグラフがあり、卒業研究に使えるし、オープンキャンパスでは高校生が被験者の体験をできる公開のデモが実施されているので、興味のある人はぜひ見学に来てほしい。そして、プロファイリングはイギリスのリバプール大学方式で行う統計学を駆使した具体的な実施例が授業で示される。その他、教室で学んだ知識を使って地域のお年寄りが特殊詐欺にあわないようにする「サービスラーニング」や、ロサンゼルスに10日ほど滞在して国際的な犯罪の調査をする「グローバルスタディ/アメリカ」の科目も開講されている。

犯罪心理学専攻の学生が選ぶ、もうひとつの進路は矯正部門である。

家庭裁判所調査官は、非行少年の性格や家庭環境も考慮し、どのような処分が適当かの審判を下すため、報告書をまとめるのが仕事である。また、法務技官は、面接や心理検査で非行の原因・理由を分析し、立ち直りに必要な教育や指導の方針を考える。法務教官は、少年院で再非行に及ばないように教育する学校の先生のような役割を担う(【心理学部】『法務教官と法務技官の違いとは』|関西国際大学 (kuins.ac.jp)参照)。次に、児童自立支援施設は、不良行為をなしたあるいはなすおそれのある児童に対して、いわば、劣悪な環境で育った児童を良好な環境で育て直すというのがその設立目的である。また保護観察官は、刑務所や少年院を出た後、社会復帰ための住まいや就職先などの生活環境調整・再犯を予防する活動を行うのが仕事である。

その他、犯罪者の立ち直り支援については、公認心理師・臨床心理士の資格を目指して大学院で臨床心理学を学ぶという進路もある。

ところで、他大学の犯罪心理学は、犯罪者と一度も対峙した経験のない、いわば専門書で得た知識のみを教えている非常勤講師の担当科目である。一方、テレビのワイドショウ番組で新しい事件が起きるたびに、犯行動機の解説を行う元警察官には捜査経験はあるが、心理学の知識はまるでない。その上、彼らの階級はせいぜい警部補クラスである。ところが、本学に在籍する元警察官は現役時代に警視正以上の階級で、大所高所から殺人事件捜査本部等の指揮を執り、難事件をいくつも解決した実績を有する4名が、実務教員として配置されている。さらに、研究部門としては心理学の大学院で学位(博士2、修士1名)を取得し、学術雑誌に論文を数多く発表しているアカデミックな知識の豊富な専門家が3名在籍している。

また現在は、公認心理師の資格を得るために「司法犯罪心理学」が必修科目になっているが、他大学で学べる犯罪心理学関連の科目は4年間で「司法犯罪心理学」の1科目だけというのがほとんどである。それに対して関西国際大学の犯罪心理学専攻では「応用犯罪心理学」「矯正心理学」「防犯心理学」「サイバー犯罪論」「国際犯罪論」など、4年間で20科目以上が開講されている。実務経験と心理学の博士学位を有する教員が合計で7名もいて、犯罪心理学系の専門科目が20科目以上もある,これほど充実した体制を敷いている大学は全国に類を見ない。

さて上記の職種は、国家・地方公務員であるから、犯罪心理学の専門知識以外に公務員の採用試験に合格できる学力を身につける必要もある。そこで本学では採用試験対策講座も設けられており、犯罪心理学の専門科目の学習と公務員対策の勉強を並行して行うことができる。なお、これまで本学の卒業生で地方公務員の警察官試験に合格したのは101名、少年補導員3名、国家公務員である法務教官は6名、刑務官5名の実績がある。

とはいえ、本学で犯罪心理学を専攻したからといって、卒業生が全員その領域の専門職に就けるわけではないが、犯罪心理学専攻では、わが国で発生した過去の重要犯罪を題材としてその端緒から解決までのプロセスを詳しく学べるように設計されている。従って学生時代に、今現在わが国で起きている諸問題を掘り起こし、それらを解決する能力を身に着けることができる教育が施されている。その結果、卒業後にはどのような職業についても、あらゆる場面で心理学の知識を生かした分析ができ、解決策を自ら提案できる力を養成していこうというのが犯罪心理学専攻の理念として掲げられている。

基礎的心理学を学んでも実社会では役に立たない、あるいは就職に有利ではないなどという高校教員もいるが、その多くは大学時代に専門的に心理学を学んだ経験がないからであろう。心理学、とりわけ犯罪心理学を学べば、自分の目の前で起きている問題を分析する能力と解決するための手段が自ずと身につくので将来の仕事に必ず有用である。実際のところ、心理学部の2021年度の就職率は98.7%、2022年度は99.0%という実績からしても本学の犯罪心理学専攻では、社会の期待に応えるような卒業生を数多く世の中に送り出しているといっていいであろう。

【心理学部 中山 誠 教授】

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