
心理学科コラム
【心理学部】『取調べ』⑦
前回まで目撃者の取調べについて書いてきました。
今回からは警察庁作成の資料『平成24年12月警察庁刑事局刑事企画課「取調べ(基礎編)」』の被疑者に対する取調べについて紹介していきたいと思います。
上記資料の8頁以下に【被疑者取調べにおける虚偽自白】についての記載があります。
「一般的に、自己に不利益な事項について虚偽の供述をすることはないものと考えがちであるが、そのような事項であっても虚偽の供述(典型的な例が虚偽自白)をすることも十分にあり得る。」その原因については、
「(1) 自発型虚偽自白
「より重い罪が明らかになることを防ぐため。」、「大切な人を守るため。」、「悪名を得るため。」等の理由から、自発的に虚偽の自白をする者がいる。また、「相手(取調官)によく思われたい。」という強い欲求のために、取調官に黙従し、虚偽の自白をしてしまう者もいる。」とあります。
テレビドラマなどで、妻や夫、子供を守るために「私がやりました。」と自白をする犯人がよく描かれます。
この様な目的で虚偽自白をした場合は「犯人隠避」にあたります。
警察としても被疑者の近親者については、誤認逮捕を避けるため様々な捜査をしますので、実際にはあまりないケースと思われます。
取調べ段階で犯行前、犯行後の行動に関する捜査を行い、供述と矛盾がないか捜査を進めるのです。
「大切な人を守るため。」に該当すると思いますが、暴力団が上位の犯行を隠すため身代わりが出頭してくるということはあり得ます。
一般社会の者と異なり、暴力団員は前科が付くことを厭わず、反社会においては功績を上げたとの評価を得ることもありますので、取調べは慎重に行う必要があります。
企業犯罪などにおいては、複数の犯罪を敢行してる被疑者が「より重い罪が明らかになることを防ぐため。」に逮捕事実となっている罪に関して自発的に供述することはままあることです。
その為、取調官は押収品の分析や、被疑者が関係する法人に関して綿密な捜査を行い、どんな犯罪が潜在化しているかあぶり出していきます。
「相手(取調官)によく思われたい。」という強い欲求のために、取調官に黙従し、虚偽の自白をしてしまう者もいる。」とありますが、実際の裁判で冤罪となった事件では、被疑者が取調官に恋心を抱いたがため、虚偽自白に至ったという事件もありました。
取調官が被疑者の心を知り、それを利用して虚偽供述を引き出したと批判を浴びる結果となりました。
いずれにしても、冤罪はあってはなりません。
そのためには、一人の取調官の心証(確信)に依存することなく、取調べ補助官の心証も含めて、収集している証拠と供述に整合性があるか、矛盾は生じていないか捜査主任官(事件捜査を指揮している捜査幹部)が慎重に判断していく必要があるのです。
以前にも書きましたが、取調べは一人の取調官によるものではなく、チームで行うものだからです。
この様に書き進めますと、警察の取調べにおいて「心理学的要素」の必要性が高いことを理解してもらえると思います。
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