心理学科コラム

202410.08
心理学科コラム

【心理学部】『取調べ』⑨

前回は「(2) 強制・追従型虚偽自白」について説明しました。

今回は続いて「(3) 強制・内面化型虚偽自白」について進めて行きたいと思います。

「被疑者取調べの相手方の中には、犯罪を犯したという記憶がないにもかかわらず、不安に満ちている、疲労している、混乱しているなどの場合に、その犯罪を自分が犯したと信じ込んで自白する者がいる。」とあります。

 この型の被疑者は実務上どちらかというと現行犯的に逮捕した被疑者にあるタイプです。

 盛り場での多数人の喧嘩の被疑者などに見られます。

 飲酒の影響もありますが、混乱、疲労から「自分がやった。」と主張します。

 仲間をかばうため、親分肌を見せるため虚偽の自白をする者もいますが、そういった類の被疑者を名乗る者は、言葉遣いや態度で真偽の判断が出来ます。

 その為注意を要するのは「混乱・疲労」から犯行の実行犯であると主張する者です。

 資料に、この種の虚偽自白は、

▶ 犯行を犯していないことについての明確な記憶がない

▶ 犯行時間に自分がしていたことの記憶がない

▶ 取調べ開始時には自分が犯罪を犯していないことの確信があったが取調官の暗示により確信が揺らいでしまうことがその原因として指摘されており、取調べの相手方が、無実であることを自分自身で確信するか、自分自身の自白を疑うようになって初めて、自白を撤回する傾向がある

とありますが、特に1点目と2点目が当てはまります。

 この様な場合は、現場の状況、目撃者の供述、防犯カメラ等の客観的証拠を総合的に考慮して逮捕の可否を判断します。

 複数の警察官で判断することにより誤認逮捕を防ぎます。

一番注意が必要なのが3点目の「取調べ開始時には自分が犯罪を犯していないことの確信があったが取調官の暗示により確信が揺らいでしまう。」というタイプです。

 冤罪事件でよく指摘される問題で、裁判上取調べが争点となります。

 その一つの原因となっているのが、日本の取調べ制度で「人質司法」と揶揄されますが、刑事訴訟法でその手続きが定められており、法律違反という訳ではありません。

 とはいえ、虚偽自白の誘導は冤罪の素ですから、取調官が暗示したり、誘導したりすることは認められるわけではなく、間違った取調べと言えるでしょう。

 実際の訴訟事例として、被疑者が取調官に好意を抱いたため、その取調官に都合のいい供述をしたというものがあります。

 「混乱・疲労」とは異なるものの、犯罪を犯したという記憶がないにもかかわらず、自分がやったと供述するというパターンです。

 取調官が被疑者の情を知っていて、その好意を利用し暗示を掛けたとすれば、冤罪を生む構図どおりということになります。

そのため、通常取調べは複数の捜査官によって行い、女性被疑者の場合は、女性警察官立会のもと取調べを行いますので、被疑者感情を注視しており、「(3) 強制・内面化型虚偽自白」の防止に注意を払っています。

刑法第248条に準詐欺の規定があり「未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。」とあります。

これは被害者の状況を指していますが、被疑者がこれらの者に該当する時つまり知的障がい者や精神病者の場合は取調べにおいては不安を取り除くこと、暗示になるような質問をしない等一層の注意と慎重な供述の真偽の判断が必要になります。

また、交通事故や交通違反で友達、配偶者、子供等をかばうため「自分がやった。」と主張して出頭してくるいわゆる「替え玉」はここで言う「強制、内面型虚偽自白」とは異なりますが、「虚偽自白」により真犯人を隠そうとするタイプで、その取調べや事実認定手続きを慎重に進めなければなりません。

もちろん替え玉出頭は犯人隠避等の罪になります。

虚偽供述を判別するためには資料に「虚偽供述(自白)を判別する場合は、取調べ全体の流れや話の整合性、客観的証拠、それまでの取調官の経験等を加味しつつ、総合的に判断すべきである。」とあることはもちろんのこと、今までにも記してきたとおり、取調べはチームワークで行います。

真実の追及は、取調官一人で行うのではなく、捜査主任官をはじめ事件の捜査に携わる捜査員すべての英知を結集して行うものなのです。

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【教授 髙橋 浩樹】

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